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「人民を騙すべきではない」―― 中国型共産主義がめざすべき道

2009年2月13日(金)

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 2009年1月2日に北京で取材した、マルクス主義の大理論家である謝韜(しゃとう)氏は、私に次のように言った。

「20世紀はアメリカ型資本主義とソ連型共産主義とスウェーデン型民主社会主義という三つの社会制度が歴史の舞台でモデルコンテストを演じた時代だった。前二者は敗退し、民主社会主義が勝利を収めた」

 それならば、中国型共産主義制度をどのように位置づけ、そして中国の社会制度はどうあるべきだと考えているのか、今回もまた謝韜氏の取材を中心としてご紹介したい。

*   *   *

前回から読む)

遠藤:謝韜先生は社会制度のモデルコンテストで優勝したのは民主社会主義だと仰いましたが、では中国はこのあと、どうすべきだとお考えですか?

謝韜:もちろん民主社会主義の道を歩めばいいのです。

遠藤:となると、現在の社会主義国家体制を放棄するということでしょうか、それとも社会主義国家の枠内で、ですか?

謝韜:そもそもマルクスが理想とした社会は、最終的には民主社会主義国家なのです。主権在民の“民主”を基礎にして、憲法にきちんと基づいた憲政を行い、労働者に高福理をもたらす福祉国家を建設することであって、共産主義などというのは、一種の空想的なユートピアに過ぎない。

人民をとりあえず騙すための芝居は、さっさと終わらせよう

遠藤:共産主義が空想的なユートピアにすぎないと……?(中国共産党員がこんなことを口にしていいのかと、私の方が内心ヒヤリとした)

謝韜:ええ、そうですよ。たとえば人民が飢餓に苦しみ、迫害や搾取によって痛めつけられている時に、「ほら、あそこに向かって進もう。あそこまで行けば、共産主義天国の幸福な生活が君を待っているよ」と言って励ませば、苦しんでいる人々は励まされて、そこに向かって進もうとするでしょう。これは空想社会主義者たちが人民をとりあえず騙すための芝居に過ぎないんですよ。こんなまやかしは、サッサと終わらせなければならない時が来ている。

遠藤:……!(中国では現在の社会主義社会を共産主義の初期段階と位置付け、いつかは共産主義の理想状態を実現できると教えている)

謝韜:なんだか驚いておられるようなので言葉を換えて言いますが、たとえばイエス・キリストが生誕千年後に復活して世界に天国を建設するとかキリスト教信者は信じているようですが、共産主義がこのような最終達成地を設定するのは、キリスト教の模倣に過ぎないのです。キリスト教の天国理論の現代版と言ってもいい。

 マルクスはそのような最終目標地は本当は設定していないのです。絶え間なく進歩し、平和裏により多くの人が幸せになっていく、そういう社会の実現を考えているだけです。これを暴力革命のように歪め個人崇拝に傾けていったのはレーニンでありスターリンであり、そして中華人民共和国が引き継いだのはマルクス主義ではなくて、レーニン主義でありスターリン主義に過ぎないのです。

遠藤:共産主義の最終目標地が、キリスト教の天国理論の現代版……?

謝韜:ええそうですよ。共産主義が実現不可能な空想であることを発見したならば、それをすぐに放棄して軌道修正をすべきなのです。官僚は、自分自身が既に信じることができなくなっている理論で自己防衛し、人民を騙すべきではない。人民には正直に告げるべきなのです。

遠藤:……私は未だかつて、ここまでの深い論理と真実を述べた中国共産党員に接したことはありません。

謝韜:いや、真に科学的唯物史観に立てば、誰でもこういう結論に達しますよ。ソ連共産党の最後の総書記長であったゴルバチョフは「何が共産主義だ!これは全てガヤガヤと大衆に聞かせた空論に過ぎない」と言っていたと、彼の姪のリューバが回想録の中で書いています。彼もまたスターリンやレーニン型の共産主義を否定していたんですよ。

遠藤:そう言えば最近、中国における“マルクス・レーニン主義”という言葉に関して、“レーニン”という言葉が少なくなり、ただ単に“マルクス主義”と言う傾向が強くなったように感じているのですが。たとえば中国社会科学院の「マルクス・レーニン主義研究所」が、「マルクス主義研究院」になりましたよね。

謝韜:ええ、その通りですよ。そうすべきだと最初に言い始めたのは、この私です。

遠藤:えっ? あれは謝韜先生のお考えに依拠していたのですか?

一人一台パソコンを持つ時代の、最大多数の最大幸福を

謝韜夫人:この人はね、いつも時代の先端を行き過ぎていて、まだ誰も言ってないことを真っ先に言い始めるんですよ。だから最初は風当たりが強くて、私はいつもドキドキなんです。

謝韜:なにも怖がることなんかないさ。私はいつも正しいことを言っているだけだから。

 もう階級闘争を中心とした暴力的革命を遂行する時代は終わったのだし、マルクスは平和裏にゆっくりと民主を基本とした憲政を行うべきだと言っているのだから、もしマルクス主義を信奉するのならば、そうすべきなのです。

 マルクスの時代に理想とした社会と言えば、せいぜい「温かな家に住める」ということが共産主義だったし、われわれ延安時代で言うならば、一階にも二階にも電気が灯る生活状況が来れば、それが共産主義の実現でした。

 でも、今はどうです。一人が一台ずつパソコンを持っていないと、庶民の需要を満たしたということにはならないでしょう?そのことから見ても、到達地があるわけではないんですよ。その時代時代に合わせて最大多数の最大幸福を目指す。それこそがマルクスの理想なんです。

 肝要なのは、「言葉だけの偽民主でなく真の民主であること。そして憲法に書かれているだけでなく、真に憲法に沿って施政がなされていること」。それだけです。

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「「人民を騙すべきではない」―― 中国型共産主義がめざすべき道」の著者

遠藤 誉

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授

1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士。中国で国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、日本では内閣府総合科学技術会議専門委員などを歴任。2児の母、孫2人。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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