「ネットは「中国式民主主義」を生むか?」

台湾問題をも睨んでいた中国の“民主ずくめ”

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2009年2月27日(金)

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(前回「中国の民主はいつ実現するのか」から読む)

 胡錦濤の「民主ずくめ」が、もう一つしっかりと睨んでいたものがあった。それは台湾問題だ。

 拙著『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす 』(日経BP社)の第6章でも触れたように、中米国交が正常化した1979年1月1日、鄧小平は「台湾同胞に告ぐ書」を発表。今後台湾とは一切の武力対立をせず、平和裏に統一問題を話し合っていこうではないかと宣言した。そして「国民党にも抗日戦争において功労があった」と位置付けた。それ以降中国大陸では国民党が活躍した抗日戦争の映画が上映されるなどして、「共にあの苦難の歴史を乗り超えてきた同胞」としての位置づけが強調されるようになっていた。

 台湾平和統一というのは中国にとっては悲壮なまでの悲願である。ここまで経済成長し強国の一つになってきた中国が、なぜあそこまで、あの小さな島一つにこだわるのか。

 外部から見れば、不思議に思われるかもしれない。

 しかし1946年から激化し49年に一応のケリを付けたかに見えている革命戦争、別名解放戦争である国共内戦(国民党と共産党の間の内戦)は、実は今現在もまだ終わってない。蒋介石率いる国民党が逃げていった台湾一つを残したままで、49年10月1日に毛沢東は天安門で中華人民共和国の宣言をしてしまった。「中華民国」が占有していた全ての土地を解放軍の手中に収めることによって、初めて解放戦争は終結する。したがって毛沢東は台湾解放を、新中国誕生後に最優先課題として継続して実施するつもりだった。

 しかし、朝鮮戦争の勃発がそれを不可能にした。アメリカは台湾海峡にしっかりと艦隊を配備し、毛沢東は台湾解放のチャンスを失ったまま、今日に至っている。

 だから中国は、絶対に台湾解放、すなわち台湾統一を放棄しない。それが百年かかろうと二百年かかろうとも、諦めることはしない。方法自体は変えることがあっても、この悲願は絶対不可侵の決意だ。

 あの革命戦争も、それに続く朝鮮戦争も中国で体験した私は、中国のその決意がどれほど強固なものであるかを知っている。

 国家命題である台湾統一に関して、胡錦濤は就任当初に大きな失敗をしたことがある。

台湾独立派の奇策にはまった胡錦濤

 台湾独立派である民進党の陳水扁と国民党が選挙で戦っていた時のことだ。中国経済に大きな魅力を感じている台湾国民は、大陸と敵対し、かつ汚職問題がつきまとっている陳水扁に対し、批判的な眼を向けがちだった。その結果少数派となりつつあった陳水扁は、奇策に打って出る。

 2003年9月28日の第17回民進党大会で「台湾新憲法」を制定すると宣言し、その後10月25日、11月11日と立て続けに「2006年12月10日、世界人権デーに合わせて国民投票によって台湾新憲法制定を決定し、2008年5月20日から新憲法を実施する」と具体的日程まで明らかにしたのだ。

 1946年以来台湾で施行されてきた「中華民国憲法」では、中華人民共和国の領土全てと外蒙古(現在のモンゴル国)および台湾自身が「中華民国」の領土であると謳われている(これを「大中国」と称している)。それに対し陳水扁は、「台湾は台湾国であり、中華人民共和国とは独立したひとつの国家だ」として新憲法を制定しようとしたのである。それも議会では少数派となっているため立法が困難と見て、「国民投票」という手段に出ようとしたのだ。

 2008年は中国大陸にとっては国家威信を賭けた北京オリンピック開催の年。これに全ての力を投じているだろうから、中国側は武力による制裁はできまいと踏んでのことである。

 胡錦濤は怒った。
 新憲法制定反対とともに、「国民投票反対」という主張を鮮明にして、陳水扁を非難。
 しかし、これが実は陳水扁が巧妙に仕掛けた「落とし穴」であった。

 なぜなら、台湾で民進党に敵対する野党、国民党は、選挙に勝つために当然陳水扁に反対する。ということは、「中国共産党と同じ立場に立つ」ということになる。

 台湾国民の圧倒的多数は、香港式の「一国二制度」により台湾を平和統一しようとしている中国共産党政権に対して、反対意見を持っている。陳水扁は、憲法改正と国民投票に対して胡錦濤が強硬姿勢を見せることで、台湾国民が「国民党=中国共産党」と思ってくれれば、選挙に勝てる、と目論んだのである。

 果たして、この胡錦濤の激しい非難は、陳水扁の思惑通り台湾国民の心を国民党から離反させ、陳水扁は僅差ながら、またも選挙に勝利したのだった。
 中国側にとっては最も好ましくない、独立派による政権維持がなされてしまったのだ。

 台湾国民が中国を警戒するのは、ひとえに「民主的な選挙によって選ばれた党が政権を握っているのではない」からである。一党独裁の恐怖政治は、40年近くにわたって戒厳令を布き続けてきた蒋介石・国民党で、こりごりだと台湾国民は思っている。

 だから「国民投票」に反対した大陸を警戒し、国民党から心が離れた。
 したがって、国家命題の実現には、大陸がいかに民主的な選挙を行っているかを宣伝しなければならない。

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著者プロフィール

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

 1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士、筑波大学名誉教授、東京福祉大学・国際交流センター センター長。(中国)国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、(日本国)内閣府総合科学技術会議専門委員、中国社会科学院社会学研究所客員教授などを歴任。

 著書に『ネット大国中国――言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『チャーズ』(読売新聞社、文春文庫)、『中国大学全覧2007』(厚有出版)、『茉莉花』(読売新聞社)、『中国がシリコンバレーとつながるとき』『中国動漫新人類〜日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP社)『拝金社会主義 中国』(ちくま新書) ほか多数。2児の母、孫2人。



このコラムについて

ネットは「中国式民主主義」を生むか?

中国では憲法上は言論の自由が保障されているものの、それはあくまでも政府や共産党を礼賛する範囲内での自由であって、実際にはかなりの言論規制がなされている。そこで匿名性の高いネット空間を用いて、網民たちは真実の吐露を試みているわけだが、それも政府の検閲に遭い、個人の書き込みが“有害情報”として削除されたり、個人サイトが封鎖されたりしているのが現状だ。しかし、あまりに激しい検閲を行うと、2.5億に上る網民たちが黙っていない。2.5億ともなると、十分に世論を形成する力を持っており、すさまじい言論パワーとなり得る。政府は飴と鞭を適宜使い分けて一定程度の書き込みの自由を与えているため、中国のネット空間は、取り締まる官側と、その検閲を何とか潜り抜けて民の主張を反映させようとする民側との間の、激しい争奪戦の様相を呈している。民側は、これを「ネット空間官民争奪戦」と称し、新時代の文化革命と位置付けている。ここから政治改革が進むのではないかと期待する網民は少なくない。そしてこれを「網絡民主」(インターネット民主)と名付けているのである。この動きは中国の政治に何をもたらすのか、最新情報からリポートする。

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