(前回から読む)
吉田 先生は前回、まず生産者や流通の実態を知るべきだとおっしゃいましたが、日本の農業には未来はないのでしょうか。
明治学院大学経済学部教授の神門善久氏。農学博士。1962年、島根県生まれ。京都大学農学部卒。著書に『日本の食と農―危機の本質』(NTT出版)。『本質を見抜く力―環境・食料・エネルギー―』(養老孟司・竹村公太郎、PHP研究所)の第6章「日本農業、本当の問題」で養老氏、竹村氏と鼎談。(写真:菅野 勝男、以下同)
神門 そんなことはありません。明るい処方箋もあります。農業の本当の可能性に気づき、適切な国土利用をするようになれば、将来の世代にものすごい利益が生まれます。
経済協力開発機構(OECD)でトータル・サポート・エスティメイトと言いますが、現時点では間接的な補助も入れて、農業に対する補助額が農業の付加価値額より大きいと言われています。つまり今の日本は、農業がなくなるとGDPが増えるというくらい悲惨な状況なのです。
しかし本来、農業は非常にポテンシャルの高いものだという確信を持っています。日本だって、デンマークのようになれると信じています。農業改革でGDP(国内総生産)が飛躍的に増えることも十分にあり得ます。
GDPはこれまでマイナスだったものですから、今、農業就業人口が4%くらいなので、それに見合った付加価値を生めば、GDPが5%ぐらいは増える。さらに国土が適切に利用されるようになれば、経済全体が活性化します。
神門教授の『日本の食と農―危機の本質』
吉田 農業はダメなのではなく、可能性はあるということですね。
神門 可能性を確信しています。さらに素晴らしいことは、日本農業を良くすることは今後のアジア太平洋地域の発展につながるということです。これだけ交通や情報が発達していますから、アジア太平洋地域で共通経済圏ができるのは必然です。その時、共通農業政策をどう設計するかということで、もめるでしょう。その時こそ日本がリーダーシップを取って、アジア型共通農業政策を提言すべきなんですよ。
金融、労働、教育などは米国や欧州にモデルがある。しかし農業については、他国にモデルがない。それは、自然条件が違うからなのです。また日本の水田はすごい。日本ではパディフィールド(paddyfield)で、コメを1000年作っても連作障害は起きない。これは欧米では、考えられないことなのです。
例えばハンガリーでは逆農業改革のおかげで、ブダペストの人間が土地を持つことになったため、土地をほったらかして耕作放棄している。「大変ですね」と言うと、ハンガリー人はけろっとしていて「これで土地が休むから、土地が肥える」と言うんです。そのうち、デンマークの資本が買いに来るだろうからクローバーか何かをまいておいて、放っておけばいいんだと。
吉田 海外と日本では土地の条件が全然違いますね。
神門 欧米と異なり、日本はじめモンスーン・アジアの多くでは、限られた平地をめぐって都市的利用と農業的利用がまともに競合します。だから、独自のアジア型の共通農業政策をつくらないといけない。このチャレンジは、我々がなすべき平和的貢献なのです。
市民参加による土地の転用権の入札がポイント
吉田 何か具体策はあるのでしょうか。
神門 僕が提言しているのは、土地利用計画の策定や運用に「参加民主主義」を取り入れること。その糸口として土地の転用権の入札(注1)を考えています。「お任せ民主主義」と揶揄されるくらい、現在の日本社会は行政への甘えが強いです。しかし、そこから脱却する覚悟さえあれば、僕の提言は実現できます。
「参加民主主義」では、市民が行政に関与する責任を負います。しかし現在の日本はその真逆で、どんどん「行政に投げっぱなしモード」になっている。これは深刻な問題です。
(注1)農地の転用権の入札
1年間に農地を転用できる面積に上限を設定し、その枠を入札によって割り振る制度。入札参加者には事前審査によって倍率を設定し、入札に採択された場合は入札額にその倍率を乗じたものを国庫に納付させる。優良農地の農外転用には高い倍率を課し、農業用の集積ほか地域振興に役立つ優れた計画には低い倍率を課す。上限や倍率の設定基準に市民参加を求める。
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1958年生まれ、法政大学大学院修士課程修了。スウェーデン国防軍国際センター民軍協力コース修了。広告代理店、出版社勤務を経てフリージャーナリストとして独立。1989年より国際協力の取材を始め、現在では世界の紛争地に赴くかたわら、発展途上国の開発・援助政策、コミュニケーション戦略を作成する。主な著書に『アマチュアはイラクに入るな』(亜紀書房)、『紛争から平和構築へ』(論創社、共著)など。ウェブサイト「








