「ネットは「中国式民主主義」を生むか?」

「中南海(中国政府要人)」に最も近いのはネット空間

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2009年3月13日(金)

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(前回「『財政出動4兆元(約55兆円)の使途をガラス張りにせよ!』」から読む)

 「中南海に最も近いのはインターネットである」

 このようなタイトルでインターネットに自分の見解を発表したのは湖南省株洲市共産党規律検査委員会の書記、楊平だ。

 共産党規律検査委員会とは、共産党の幹部が汚職等の腐敗政治を行っていないか、違法な行為を行っていないか等を検査し告発する組織である。中国語では規律は「紀律」と書くので「紀委」と略称される。書記というのは、各レベルの党組織の最高指導者を指す。

 なお、中南海というのは天安門の並びにある中国政府や中国共産党の要人が住む官邸のことだが、同時にそこに住んでいる政府要人たちのことも指す。「中南海に最も近いのはインターネットだ」という言葉は、「政府要人に最も近いのは網民だ」ということを意味している。

 楊平書記は2008年の4月に、株洲市の市民が市政府に激しい不満を抱いているという事実をネットで知った。「城管(市容城管行政執行局の略)」という都市管理行政執行局のようなところが道端で食べ物等を売る露天商を街から一掃してしまったのだ。そのため日常生活が非常に不便になったと、市民は不満たらたらだった。

実名でネット空間に登場した共産党幹部

 これを見た楊平は、ネットの一読者として匿名で市政府側に立った弁明を書き込んでみたところ、「お前は、お上に養われた犬なのか!」という、かなり汚い侮蔑の書き込みが帰ってきたという経験を持つ。

 ところが5月14日、湖南省共産党委員会の書記である張春賢が実名で網民たちに、その年の春節(旧正月)の挨拶を送っていたのをネットで発見した。

 「そうか、実名という方法があるかもしれない」と楊平は気づいた。

 そこで、賀春のメッセージを発見してから2時間ほど後に、楊平自身も「湖南省紅網(網はネット)」というポータルサイトの「城市論壇(都市フォーラム)」に実名登録して楼主(掲示板にスレッドを立てて意見を発表する人。スレ主)となり、網民たちに市政府の業務に関して語りかけてみようと試みた。

 ところが、何度実名登録をしても削除されてしまい、「市紀委書記の名前を騙(かた)るとはふとどき者!」という警告をポータルサイト運営者から毎回受ける。

 そこで「湖南省紅網」のオフィスに直接連絡して、本物の楊平であることを告げると、サイト運営者はひどく驚き、そういうことならと、すぐさま受理したのだった。

 ようやく自分の写真と実名と職名を明示した楼主として、ネットに意見を発表することができるようになった彼が、ネットに書いたメッセージ。それが、「中南海に最も近いのはインターネットである」というフレーズだった。そしてみんなの周りで何か不正なことが起きていたら、自分に知らせてくれと頼んだのだった。

 しかし網民の反応は、まずバッシングから始まった。

殺到する網民からの非難

「お前は自分が目立ちたいだけだろう。良い点数を取って、中南海に褒められたりでもしたいのか?」

 から始まって、

「中南海に近い、という概念自身、官本位の考え方にすぎない。中南海が大切だと思っている証拠だ」

 というのもある。楊平は慌てて、

「いや、中南海に最も近いのはインターネットで、インターネットに一番近いのは庶民大衆だ。インターネットは、民意と民情(人民の願望や気持ち)を最もありのままに反映する道だ」

 と抵抗した。すると今度は、

「実名で書き込みをしている振りをしているだけで、どうせ秘書にでも打たせてるんだろう」

 といった非難が来る。

「いや、パソコンは自分で打っている」

 と反論すると、次に来たのは

「パソコンなど打っている時間があったら、自分の業務をしっかりやったらどうだ」

 というコメントが載っている。

 楊平は朝が来るのが怖くなってきた。パソコンを開いて、そこに何が書き込まれているかをチェックするのがつらくなったのだ。

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著者プロフィール

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

 1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士、筑波大学名誉教授、東京福祉大学・国際交流センター センター長。(中国)国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、(日本国)内閣府総合科学技術会議専門委員、中国社会科学院社会学研究所客員教授などを歴任。

 著書に『ネット大国中国――言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『チャーズ』(読売新聞社、文春文庫)、『中国大学全覧2007』(厚有出版)、『茉莉花』(読売新聞社)、『中国がシリコンバレーとつながるとき』『中国動漫新人類〜日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP社)『拝金社会主義 中国』(ちくま新書) ほか多数。2児の母、孫2人。



このコラムについて

ネットは「中国式民主主義」を生むか?

中国では憲法上は言論の自由が保障されているものの、それはあくまでも政府や共産党を礼賛する範囲内での自由であって、実際にはかなりの言論規制がなされている。そこで匿名性の高いネット空間を用いて、網民たちは真実の吐露を試みているわけだが、それも政府の検閲に遭い、個人の書き込みが“有害情報”として削除されたり、個人サイトが封鎖されたりしているのが現状だ。しかし、あまりに激しい検閲を行うと、2.5億に上る網民たちが黙っていない。2.5億ともなると、十分に世論を形成する力を持っており、すさまじい言論パワーとなり得る。政府は飴と鞭を適宜使い分けて一定程度の書き込みの自由を与えているため、中国のネット空間は、取り締まる官側と、その検閲を何とか潜り抜けて民の主張を反映させようとする民側との間の、激しい争奪戦の様相を呈している。民側は、これを「ネット空間官民争奪戦」と称し、新時代の文化革命と位置付けている。ここから政治改革が進むのではないかと期待する網民は少なくない。そしてこれを「網絡民主」(インターネット民主)と名付けているのである。この動きは中国の政治に何をもたらすのか、最新情報からリポートする。

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