「ネットは「中国式民主主義」を生むか?」

最終回 ネットが生み出す「中国式民主主義」

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2009年3月27日(金)

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 前回も触れたように、2009年1月14日にCNNIC(中国インターネット情報センター)が発表した「中国互聯網(インターネット)発展状況統計報告」によれば、中国の2008年末における網民(ネット市民)の数は2.98億人に達した。

 これは群を抜いた世界一の数値であるだけでなく、前年度比が41.9%増であるというから、これもまた前代未聞の成長ということができよう。ネット新聞の購読者は2.34億人。自分のブログを持っていて日々意見を発表している網民の数は1.62億人に達しているので、中国人の8人に1人が自分のブログを持ちネット言論を形成している計算になる。

8人に1人がブログ、農村への浸透も進む

 今まで網民は都市に集中する傾向にあったが、今般の調査による農村網民の数は8460万人に達しており、農民人口を7億と考えたとき、農民におけるネット普及率は12%になる。全国民の平均ネット普及率22.6%と比べるとまだ低いものの、前年度比60%増以上の地区が内陸の西部地区に集中していることから見ると、農村への浸透には見るべきものがある。

 そこには胡錦濤政権の「都市と農村の格差軽減化」という国家戦略がある。

 信息(情報)産業部(部は日本の省に相当)を中心として、農業部、科技部、教育部、国家広播電影電視総局、国家気象局等の中央行政省庁が連携し合って「農村信息化」という国策を推進した成果が実ったのだ。胡錦濤のスローガンである「和諧社会(調和のとれた社会)」が、スローガンだけで終わらず現実に反映された証拠として高く評価されている。そこにこれからの市場があると、電子産業業界が大いに食指を動かしているところでもある。

 いずれにしても農村網民が全網民の約30%を占めていることを考えれば、ネット空間は世論形成という視点から、全国民の利害を代表する媒体となっていると言うことができる。

 2009年12月末に社会科学文献出版社から発行された『社会藍皮書 2009年社会形勢分析と予測』(中国社会科学院)に所収された「2008年中国インターネット世情分析」では、網民を「新意見階層」と位置づけ、ネット空間におけるオピニオンリーダーを「意見領袖」と名付けている。

 ある事件が起きた時に、問題点や価値判断等の分析すべき視点を、「意見領袖」が提起し、それを見て低年齢層を中心とした網民がウワーッとばかりにネット言論を膨張発酵させていくという。

 中国政府はネット管理という立場から「意見領袖」を重要視すると同時に、「政府共産党の宣伝隊伍の中で、積極的に自分たちの側に立つ<意見領袖>を育て上げる」ことを目指し、「新意見階層」の誘導を試みている。いわゆる「世論誘導」を、こういう形での「トップダウン」で行おうというのである。

 これまで何度かご紹介してきた「五毛党(五毛銭をもらって、政府の喉舌となって書き込みをする人)」の育成において、「量的」な、厚みを出す役割から一歩進めて、オピニオンリーダーという「質的」役割を果たすような「人材」を育成していこうというのだ。

 これはネット空間における、政府による世論誘導の「新兵器の開発」と見ることができる。

ネット空間で意見を直接問う政府

 さすが思想宣伝にかけては百戦錬磨の中国共産党。
 これではネット民主も何もあったものではないと思ってしまうが、それが、実はそうでもない。

 前回は「e-政府」という形で、政府行政が電子化され、広く国民に意見を求めて国家の政策決定に反映させていくということを書いたが、実は国会運営に関しても、同様のことがストレートに行われている。

 中国には“両会”という言葉がある。
 年に一回開催される国会に相当するものを指しているのだが、“両”の内の一つは全国人民代表大会(全国人大。日本では全人代)で、もう一つは中国人民政治協商会議全国委員会(全国政協)である。両会は実質上、「全国両会」を指し、全国両会の下には網の目のように地方両会がある。

 この全国両会で議論するテーマに関して、中国政府は全網民に対して意見を直接求めるシステムを作り上げた。称して「両会調査」。

 たとえば「2009両会調査」を見てみよう。
 これは中国人大新聞網中国政協新聞網の共同運営によるもので、人民網新華網が提供し、それを新浪網捜狐新聞などが協力して転載するというような形を取っている。

 そこには◆十大熱点(ホットスポット)、◆三大熱点、◆腐敗問題、◆収入分配、◆就業問題、◆食品安全、◆医療改革、◆司法公正、◆住居問題、◆依法(法に依る)行政(憲政)◆教育公平、◆三農問題、◆金融危機、◆株価安定等々の項目が羅列してある(◆印で示した項目のうち、カッコ内は筆者の注記)。

 網民自身が最も興味のある項目をクリックすると、さらに詳細な情報が提供されていて、それをさらにクリックして自分の意見を表明し、日本の国会に当たる両会に届けるというシステムだ。

 「◆」印の項目の最後には「私は総理に聞きたい問題がある」という項目があり、そこには具体的に自由記述による意見を書いて良いことになっている。総理との直接の会話が、こうして実行される仕組みだ。

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著者プロフィール

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

 1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士、筑波大学名誉教授、東京福祉大学・国際交流センター センター長。(中国)国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、(日本国)内閣府総合科学技術会議専門委員、中国社会科学院社会学研究所客員教授などを歴任。

 著書に『ネット大国中国――言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『チャーズ』(読売新聞社、文春文庫)、『中国大学全覧2007』(厚有出版)、『茉莉花』(読売新聞社)、『中国がシリコンバレーとつながるとき』『中国動漫新人類〜日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP社)『拝金社会主義 中国』(ちくま新書) ほか多数。2児の母、孫2人。



このコラムについて

ネットは「中国式民主主義」を生むか?

中国では憲法上は言論の自由が保障されているものの、それはあくまでも政府や共産党を礼賛する範囲内での自由であって、実際にはかなりの言論規制がなされている。そこで匿名性の高いネット空間を用いて、網民たちは真実の吐露を試みているわけだが、それも政府の検閲に遭い、個人の書き込みが“有害情報”として削除されたり、個人サイトが封鎖されたりしているのが現状だ。しかし、あまりに激しい検閲を行うと、2.5億に上る網民たちが黙っていない。2.5億ともなると、十分に世論を形成する力を持っており、すさまじい言論パワーとなり得る。政府は飴と鞭を適宜使い分けて一定程度の書き込みの自由を与えているため、中国のネット空間は、取り締まる官側と、その検閲を何とか潜り抜けて民の主張を反映させようとする民側との間の、激しい争奪戦の様相を呈している。民側は、これを「ネット空間官民争奪戦」と称し、新時代の文化革命と位置付けている。ここから政治改革が進むのではないかと期待する網民は少なくない。そしてこれを「網絡民主」(インターネット民主)と名付けているのである。この動きは中国の政治に何をもたらすのか、最新情報からリポートする。

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