「中国

オタクは身を助ける?
〜日本動漫で救われた中国在住の日本人生徒

――きみ、セガサターン、知ってる?

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2009年4月9日(木)

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 柏原竜洋(たつひろ)くんは、父親の仕事の都合で、1993年から中国の北京に住み始めた。当時まだ13歳。

 父親は日中交流関係の仕事をしており、日本にいるときは対日友好を意識している中国人としか会ってなかったので、てっきり中国には日本に友好的な人が多いのだと思って、対日感情に関しては楽観していた。仕事の内容が現地に根差す性格のものだったこともあり、長期滞在が予想されたため、どうせなら子供を中国に慣らさせようと思ったらしく、柏原くんは北京の日本人学校ではなく、純粋な中国人のふつうの中学校にいきなり放り込まれた。北京師範大学第二附属中学という名門校だ。おまけに中国語の研修なしにである。

 いくら12歳前後が言語習得適齢期であるとは言え、これはかなりきつい。
 授業で何をしゃべっているのかも分からないし、クラスメートが何を言っているのかも理解できない。勉強どころか基本的なコミュニケーションにすら不自由する毎日。

 94年になると、空気はガラッと変わってきた。
 愛国主義教育が強化されたのだ。そして拙著『中国動漫新人類』でも詳述したように、運命の95年がやってくる。

 日本で言うところの終戦50周年記念だが、中国では「抗日戦争勝利50周年」と称する。この年5月、モスクワで開かれた反ファシズム戦争勝利記念大会に、連合国側の国の一つとして江沢民が参加したが、欧米諸国の首相が壇上に上がってスピーチをすることが許されたのに対して、江沢民には指名がなかった。怒った江沢民は当時のエリツィン大統領に文句をつけ、強引に壇上に上がって、中華人民共和国も反ファシズム戦争を戦った一員であることを宣言した。

 そのため、帰国後は、抗日戦争勝利と反ファシズム戦争勝利を一体化させた行事を大々的に行わせ、1945年当時の中国、すなわち中華民国ではあるが、現在の中国、すなわち中華人民共和国こそが、反ファシズム戦争の勝利国であることを全世界にアピールしようとした。そのため、中国全土を「抗日戦争勝利+反ファシズム戦争勝利」一色に燃え上らせた。

反日感情のピークに遭遇、学友、教師にまで責められる

 その結果、反日感情はピークに達するのである。
 柏原くんがいた北京師範大学付属中学でも、来る日も来る日も抗日戦争勝利を題材としたイベントが繰り広げられ、放課後は講堂に集まって抗日戦争勝利を祝う集会が開かれた。

 授業中も教科書以外に、抗日戦争に関するプリントが配られる。
 美術の時間は、日本軍の残虐行為や抗日戦争で戦う共産党軍の勇猛な姿をモチーフにした絵を描いたり、その解説をするため、結局歴史の授業のようになる。

 音楽の時間は抗日戦争当時の歌が、やはり解説付きで歌われるので、ここでも抗日戦争を主題とした歴史の授業となる。

 柏原くんは、このときに歌った抗日戦争の歌が何であったかを覚えてない。当時の記憶が辛いので忘れたいという気持ちが働いているのだろう。私の経験では、こういうときに歌われるのは、概ね「大刀行進曲」という俗称で呼ばれる「大刀向鬼子們的頭山砍去」(大刀を日本の鬼畜生の頭めがけて振り降ろし叩き切れ)という歌で、最後に「殺!」というスローガンを叫ぶ歌だ。

 それをまるで、目の前にいる日本人である柏原くんが「諸悪の根源の張本人」であるかのごとく、クラスメートが柏原くんに向かって歌うのだ。おまけに教師までが、「お前の国は、こういうことをやったんだ。わかったか!」と柏原くん個人を問い詰めるという状況さえあったという。

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著者プロフィール

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

 1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士、筑波大学名誉教授、東京福祉大学・国際交流センター センター長。(中国)国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、(日本国)内閣府総合科学技術会議専門委員、中国社会科学院社会学研究所客員教授などを歴任。

 著書に『ネット大国中国――言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『チャーズ』(読売新聞社、文春文庫)、『中国大学全覧2007』(厚有出版)、『茉莉花』(読売新聞社)、『中国がシリコンバレーとつながるとき』『中国動漫新人類〜日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP社)『拝金社会主義 中国』(ちくま新書) ほか多数。2児の母、孫2人。

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