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無抵抗の黒人青年を、警官は地下鉄ホームで射殺した

オークランド、格子の街角【前編】

  • 林 壮一

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2009年5月14日(木)

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 今年の元旦、午前2時を少し回ったところだった。カリフォルニア州オークランドを走る地下鉄の駅で、22歳の黒人青年が白人の警官に射殺された。

 若者の名をオスカー・グラントという。4歳の幼い娘を持つ男だった。

 銃弾を撃ち込まれた際、グラントはプラットホームにうつ伏せに寝かされていた。両手首には手錠が掛けられ、どう足掻いても警官に抵抗はできなかった。彼は地下鉄車内で乱闘を起こしたが故に、そのような姿となっていた。

 グラントは病院に運ばれたが、撃たれてからおよそ7時間後に息を引き取る。

 この模様を、停車中の地下鉄利用客が、携帯電話の動画機能で撮影していた。やがてその映像がYouTubeで出回るようになる。無抵抗のグラントに発砲する必要があったのか? そんな物議が醸し出され、オークランドでは暴動やデモ行進が起こった。

暴動まで発生、警官は逮捕

 ホームにうつ伏せになる前、グラントは警官に対して懇願するように語ったという。

「(スタンガンを)向けないでくれよ。俺には4歳の娘がいるんだ!」

 しかしながら、警官が手にしたのはスタンガンではなく、本物の銃であった。

 この“殺人事件”から12日後、グラントに発砲した27歳の警官が逮捕される。また、翌13日には遺族の弁護士が2500万ドルの損害賠償請求を申し立てた。訴訟を起こした弁護士は言った。

「こんなことをしたところで、オスカー・グラントはもう戻って来ません。でも彼の母親は、息子の命を奪った警官が逮捕されたことで、多少の安らぎを得ることができたのです」

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 オスカー・グラントが撃たれた地下鉄の駅は「Fruitvale」。オークランドにはNFLのレイダース、NBAのウォーリアーズ、MLBのアスレティックスと3つのプロスポーツチームがあり、球場とアリーナが隣接している。「コロシアム」という名が付けられた球場&アリーナの最寄り駅から、サンフランシスコに向かって一つ隣の駅が「Fruitvale」である。

 私はかつて、日本のスポーツ新聞社とMLB通信員契約を結んでいた時期があり、アスレティックスの球場は40回近く訪れていた。初めて足を運んだ日に驚かされたのは、近所のガソリンスタンドやコンビニエンス・ストアで、午後8時台から鍵が掛けられ、客が中に入ることができなくなったことだ。全てマイクを通して、レジに座る従業員とやり取りするのである。無論それは、防犯のためであった。

 プレスルームで顔馴染となったアメリカンの同業者に、「球場近くのモーテルに泊まっている」と告げると、「契約する社からカネが出るのなら、もっとマシなエリアにステイしろよ」というアドバイスを何度も受けた。実際、レイダースのオフィスは、少し離れた高級住宅地に設けられていた。

 2009年初めの時点でオークランドの人口は40万1489名。そのうちの14.7パーセントが失業者である。2003年にFBIが発表したデータによると、殺人事件の数は全米平均の3.5倍、レイプ罪が1.81倍、強盗が2.78倍、車の窃盗が2.26倍、放火が2.77倍となっている。

 この連載の第4回5回で取り上げた、同じカリフォルニア州のワッツほど荒廃した場所ではないが、安心して歩ける場所でないのも事実だ。

 私自身、オスカー・グラントが撃たれる様をYouTubeで何度か見た。まるで虫けらのように殺された22歳。黒人大統領が誕生する時代になったというのに、簡単に人権を踏みにじる警官のモラル。それらに関する現地の声を聞いてみようと思った。

※当初、私はグラントの母へインタビューを試みたが、裁判中なのでメディアに多くを話せないと断られた。

駅周辺で黒人たちの声を聞いた

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 何度もオークランドを訪れている私だが、改めて観察してみると「Fruitvale」駅周辺の住宅は、窓に格子が嵌められている家が多い。

 アメリカ国民は、洗濯物を外に干すことを嫌う。乾燥機を買えない貧民のシンボルだとされているからだ。だが、この近辺では庭に干された多くの洗濯物を目にした。また、建物の壁や色からも貧しさが伝わる。

 「Fruitvale」駅にレンタカーを停め、擦れ違う人々に声を掛けてみる。駅を利用する人の多くは、黒人であった。

 私は16年前にこの駅を利用していた時期があるが、何度か身の危険を感じたものだ(もっとも、その頃はまだ“旅行者”に過ぎず、英語も拙かった)。当時と比較して、駅前は目覚しい発展を見せていた。小奇麗なレストランやショッピングビルが並び、貧民街には見えない。

 改札口の前で右足にギブスをして歩いていた黒人青年は話した。

「オスカー・グラントが亡くなったのは、人種差別以外の何物でもないよ。あの警官・・・いや、アイツだけじゃないな。俺たち黒人を人間と思っていない野郎が多いのさ」

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