麻生太郎内閣総理大臣は、21日午後に衆議院を解散し、8月30日に総選挙を行うことを宣言する。解散から総選挙まで、「衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない」という憲法第54条の条文のギリギリの日程が組まれた。今日から40日間、各政党は衆議院選挙としては長期の戦いを繰り広げることになる。
政治の大改革を期して始めたこのシリーズは、政界大再編の時機を迎えて問題の背景と論点を整理することで、有権者の声が最大限に反映できる環境を作るのが狙いだ。今回は、マニフェスト(政権公約)の中心に据えるべき経済政策の中長期戦略について、各党の一考を促したい。
マニフェストの本来のあり方は、「こういう社会と経済の仕組みを作ります。そのため、このような政治を行います」と、政治の骨格に相当することを公約することだと筆者は思っている。5〜10年のスパンで用意され、その評価がきちんとできる体制であることが前提だ。
しかし残念ながら日本では、選挙のたびに、有権者に恩恵を与える施策を揃えることがマニフェストだと思われているようだ。各政党が提示するマニフェストとは、「政権公約」ではなく「選挙公約」という言葉で言い表すのが正しいだろう。
民主党のマニフェストは骨格なしの生活者対策
民主党は今年4月、「生活・環境・未来のための緊急経済対策」(骨格)を発表した。これがマニフェストに相当する。基本方針は、以下の通りである。
・「生活が第一」「生活をよくすれば、経済がよくなる」
・2年間で約21兆円の財政出動(真水)で、景気回復・雇用拡大を実現
・家計が自由に使えるお金(可処分所得)を増やす
・年金、医療、介護の抜本的な拡充で、現在の不安を軽減し、将来の安心感を高める
・「内需主導型」経済構造への転換により需給ギャップを解消し、未来に向けた産業を育成する
・既得権温存を目的とする事業、旧来型公共事業などの非効率な事業を排し、生活・環境・未来のための政策を実現するために、予算の総組み替え(税金の遣い方の抜本改革)に着手する
この方針に続いて、それを叶えるための様々な施策が書かれている。その中身とは、下記のようなものだ。
・「家計が自由に使えるお金」(例:子ども手当、高速無料化)
・「新しいライフスタイル」(例:太陽光パネル設置促進)
・「現在の不安を軽減し、将来の安心感を高める」(例:全ての労働者に雇用保険適用)
・「消費の拡大と新産業の育成、安定雇用の維持・拡大」(例:個別所得保障制度等による農林水産業の再生)
これらは結局、国民を「生活者」「受益者」と見立て、「わが党が政権を取ったら、これをしてあげます」という、政府から国民への恩典メニューである。国家としてのビジョンは、縦割り行政と同じ分類で「マニフェスト政策各論」に収められている。そこには、前回の記事で筆者が提示した「参加型民主主義」に通ずる理念は見られない。
7月には民主党の岡田克也幹事長が、「財源がない」との理由でマニフェストを絞り込み、初年度の子ども手当の半減、高速道路無料化の一部実施などの制限が加わった。いずれの施策においても、財源は中止要請が出ているダム工事などの公共事業の見直しと、国家公務員の人件費削減、埋蔵金の運用益と政府資産の売却で賄うとしている。
参加型民主主義は、民主党にとっては“新しい”概念だから、導入は無理かもしれないが、マニフェストに政権政党として貫く骨格に相当するものがないのが問題だ。骨格とは、国家の資産を活用、運用する仕組みつくりである。外国為替資金特別会計をどう活用するのか、埋蔵金つまり財投特別会計を歳入に充てるだけでよいのか、それを温存させてきた財政投融資特別会計の仕組みには着手しないのか、特に政府系金融機関の今後について言及がない。
有権者は、政府系金融機関の問題は該当する金融機関の職員だけの問題と思っているのか、関心をあまり寄せていないが、実は国家資産の活用スキームがこの問題の核心なのである。無関心は大変危険だ。
今回の選挙は、民主党にとって政権交代のチャンスだ。国民の関心が政治と政策に向く好機なのだから、政治に参加する費用を考え、負担する国民であってほしい、と示してほしいところである。
民主党のみならず、自民党の従来のマニフェストも、国民を「受益者」と定義づけ、政治の参加費、つまり負担の議論を一切していない。小泉純一郎政権時には「改革には痛みが伴う」の言葉があったが、その後の政権では言及がない。「政府が何をしてくれるか、ではなく、自分が政府に何をしてやれるか考えてほしい」というケネディの言葉を、知識層は待ち望んでいるに相違ない。ここが、国民が政治に愛想を尽かす理由だろう。
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1958年生まれ、法政大学大学院修士課程修了。スウェーデン国防軍国際センター民軍協力コース修了。広告代理店、出版社勤務を経てフリージャーナリストとして独立。1989年より国際協力の取材を始め、現在では世界の紛争地に赴くかたわら、発展途上国の開発・援助政策、コミュニケーション戦略を作成する。拓殖大学国際学部非常勤講師も務める。







