2009年7月28日付の香港紙「蘋果日報(Apple Daily)」は、「中国の博士号授与数は米国を抜き、中国は世界一の博士号授与国となった」と報じた。
同時に「そのうちの半数以上の博士が政府に入って役人となっており、かつての90%以上の博士が大学や科学研究所に残留した時代とは一線を画している」と伝えた。同記事の概要は次の通りである。
140カ所の軍系大学や科学研究所でも授与
―― 政府発表データによれば、2007年に米国で博士号を取得した人は4万8000人で、中国は4万1000人であった。ただし、この年、中国で博士課程に在学していた研究生は22万2000人であり、この2年間で育成した博士の数は既に米国を抜き去っている。
この「国産博士」の大増産は、博士号授与機関の数で中国が米国を上回っていることに起因している。すなわち、米国の場合は253カ所の大学だけが博士号を授与できるが、中国では259か所の大学のみならず、約140カ所の軍系大学や科学研究所なども博士号を授与することができる。
こうした状況を捉えて、中国のちまたでは「教授は地に満ち、犬の数は博士の数にも及ばない」と揶揄して、博士号授与機関と博士がやたらと多い現状を風刺している――。
日本は米国、中国に大きく水をあけられた
ところで、日本の博士号授与機関数はどうか。
2006年の全国大学一覧によれば、日本で大学院を設置している大学の数は、国立86校、公立64校、私立425校の合計575校。大学院の在学生は約26万人で、このうち博士課程の在学生は7万5365人であった。
年度は異なるが2004年の統計では博士号授与数は1万6851人に過ぎない。このうち4480人は大学院の課程を経ずして、論文提出のみで学位を取ったいわゆる「論文博士」であり、大学院の博士課程を修了した「課程博士」は1万2371人に過ぎない。
人口に大差があるとは言え、日本は年間の博士号授与者数では米国、中国に大きく水をあけられているのが実情である。
「博士高官」の多くが「論文博士」
さて、中国の博士にも相当数の「論文博士」が含まれていることは、つとに知られている話である。
中国共産党中央政治局の政治局員25人中にも、博士号を持つ国家副主席の習近平(清華大学法学博士)、副総理の李克強(北京大学経済学博士)、中央組織部部長の李源朝(中央党学校法学博士)、国務委員の劉延東(吉林大学法学博士)が含まれている。
彼らの履歴から博士号の取得時期を検証すると、業務多忙の中で博士号を取得しており、彼らが「論文博士」であることは間違いないと言ってよいだろう。少なくとも習近平以外の3人は博士論文がちゃんと提出されていることが確認されている。
なお、ある資料によれば、習近平の履歴にはかつて清華大学経済学博士と記載されていたが、後に清華大学法学博士に変更されたのだという。
こうしたこともあってか、習近平の博士号については正式に博士論文を提出して授与されたものか否か、中国国内でも論議を呼んでいる。
米三流大学の基準で評価しても99%不合格
それはともかく、高官がまともな論文を提出しないまま、高官であるが故に労せずして大学から博士号を授与されることも多いという。これが「そのうちの半数以上の博士が政府に入って役人となっている」と言われる一因にもなっている。
東京大学で若手教官を経て現在海外で研究をしています。東京大学でも1教官あたりの大学院生の数は中国とさほど変わりません。これはひとえに文部科学省のポスドク1万人計画による大学院の定員の無謀な増大、予算削減による教官定数削減のたまものです。また博士号取得者の質も東京大学で博士号を取得する学生の3-4割は「米三流大学の基準で評価しても不合格」でしょう。(2009/08/10)