Mark Scott (BusinessWeek誌、ロンドン支局記者)
米国時間2009年8月6日更新 「Avoiding Europe's Carbon Trading Missteps」
ベルギー・ブリュッセルの中心街にある前面ガラス張りの現代的な建物、ベルレモン・ビルには、欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会の本部がある。首都の一等地に陣取る圧倒的な存在感から「ベルレモンスター」の異名を取るこの建物には、ほぼ毎日、EU加盟国27カ国の政策当局者らがせわしなく出入りしている。
だがここ3年間、欧州委本部にはEU加盟国以外の遠方からの来客も訪れている。米政府当局者が欧州の二酸化炭素(CO2)排出量取引制度のノウハウを学ぶため、足しげく通っているのだ。米国では現在、EUと同様の排出量取引制度を導入する法案が連邦議会で審議されている。
欧州の事例は、米国が参考にするのにまさにうってつけだ。ノルウェーの調査コンサルティング会社ポイントカーボンによると、2005年に導入されたEU排出量取引制度(EU-ETS)の市場規模は、2008年には900億ドル(約8兆7000億円)に達し、世界最大規模のキャップ・アンド・トレード型(排出量の上限を決め、過不足分を取引する方式)CO2排出量取引制度となっている(BusinessWeek.comの記事を参照:2009年1月14日「Europe Leads Growing Carbon Markets, For Now」)。
一方、米国で現在最も大規模なキャップ・アンド・トレード方式の排出量取引制度である、ニューヨーク州など北東部の10州が参加する「地域温暖化ガスイニシアチブ(RGGI)」の市場規模は、わずか2億4000万ドル(約230億円)に過ぎない。
どちらの制度も総排出量に上限を設定している。企業は温室効果ガス排出量1トンにつき1単位の排出権を必要とする。割り当てられた排出枠と比べて排出量が少ない場合には、余剰分の排出権を市場で売ることができる。6月26日に米下院を通過した地球温暖化対策法案が成立すれば、米国でも同様の排出量取引制度が導入される。
削がれる投資意欲
だがEUの事例が証明しているように、重要なのは制度の細部だ。アナリストらは、米国がEUの様々な失敗を繰り返さないためには、排出量に厳しい上限を設け、排出量取引制度の恩恵を受けるのが企業ではなく基本的に消費者になるよう制度設計に配慮すべきだと指摘する。温室効果ガス削減を関係当局や世論が支持するだけでなく、排出権価格が長期的に安定することも、排出量取引制度に懐疑的な産業界を説得するのに有効だという。
欧州がこうした教訓を学ぶには時間がかかった。実際、EU-ETSの第1段階は完全な失敗に終わった。欧州委が現状の排出量水準を過大に見積もり、排出量の上限を高く設定しすぎたため、余剰排出権が過剰に発生。さらに、排出枠の大半を無償で割り当てたことが事態悪化に拍車をかけた。
排出枠の無償配分を受けた企業は、欧州委の排出量推計ミスにより棚ぼた的な利益を得た。2006年5月の時点で、企業は余剰排出権を1トン当たり最高30ユーロ(約4100円)で売却できた。だが2007年末には、排出権の供給過剰で市場は暴落し、排出権価格は2ユーロセント(約3円)まで落ち込んだ。そのため、企業の環境エネルギー事業やクリーン技術への投資意欲が完全に削がれてしまった。さらに悪いことに、制度導入から3年間、欧州の温室効果ガス排出量が減少することはなかった。
現在、欧州委はこれまでの問題点の是正に取り組んでいる。まずは、排出量の上限と排出枠配分の厳格化だ。EU-ETSの第3段階に入る2013年以降、電力や化学などエネルギー集約型産業を含め、全産業に割り当てる総排出量を2020年まで毎年2%近く削減する。2008年にも同様の排出量削減策を開始し、排出権の過剰がおおむね解消された。こうした排出量削減策で2020年には温室効果ガスの排出量が2005年の水準に比べ21%削減される見込みだ。これは世界のどの地域よりも大幅な削減となる。
強く望まれる排出権価格の安定
欧州委は企業への排出枠の無償配分も見直している。2013年から、エネルギー部門を中心に排出枠の5分の1を入札方式で販売する。仏電力公社(EDF.PA)や独エーオン(EONGN.DE)などの電力会社は、無償の排出枠が割り当てられているにもかかわらず、排出量取引の費用を電気料金に転嫁していると批判されてきた。
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