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合衆国とカナダ、弱者にとっての棲みやすさは?

  • 林 壮一

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2009年8月27日(木)

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 カナダを代表する都市、オンタリオ州トロント。
 市の人口は250万。合衆国ニューヨーク州マンハッタンと同じように近代的な高層ビルが建ち並び、街を歩けばバングラディシュ、パキスタン、ガイアナと、多国籍の移民と擦れ違う。

 今回は、そんな一見アメリカと似た隣国からのリポートをお届けしたい。

◆   ◆   ◆

「私はカナダで教育を受けていないから、こんな仕事しかできないのさ」

 トロントのダウンタウンで顔を合わせたパキスタン人男性は言った。ピザの配達中である。店のユニホームとキャップを身に着けていた。

 こちらが何も訊いていないというのに、口から漏れるのは愚痴ばかりである。そんな彼に質問してみた。

「パキスタンで暮らすのと、トロントでの生活はどちらがベター?」
「そりゃあ、トロントさ。パキスタンなんて、仕事が全然無いからな」
「なら、良かったじゃない」
「まあな。あんた、こちらで勉強したのかい?」
「一応、アメリカの大学で学んだよ」
「じゃあ、金持ちなんだな」
「とんでもない」
「いや、トロントに観光で来られるなら金持ちだ。俺から見ればね」

 ホテルのフロントに勤めるパキスタン2世の男性も話した。

「両親の代に移民となりました。僕はここで生まれ育ったから、パキスタンの貧しさは知らないけれど、父も母も戻る気はゼロだといつも会話していますね」

 レンタカーでトロントの街を流していると、大きな公園が目に留まる。アメリカ以上に土地が余っている。とにかく広い。そんな公園で、黒人の老人と並んでベンチに腰を掛けた。

「一度だけ、滝を見に行くことが出来たよ。話に聞いた以上に勇壮だった。素晴らしかったね。色々なことを洗い流してくれるような・・・清々しい気持ちにさせてもらえたよ」

ジャマイカからカナダへ

 74歳のジャマイカ人、ジェイムス・ゴーワンは2年前に娘を頼ってオンタリオ州トロントに移り住んできた。

ジェイムス・ゴーワン

「ジャマイカって国はさ、とにかく貧しい。だから、大勢の人間が移民となって国を出て行く。ワシの娘はカナダに移住して、もう20年近くになる。もっと早く来たかったよ」

 彼によれば、70万人のジャマイカ人がカナダ移民局に申請を出し、返答を待っているそうだ。ここ数年は年間に1万1000人以上の不法就労者が、カナダから強制退去されていると語った。

「そのうち、ジャマイカ人は何パーセントくらいになりますか?」

 と訊ねると、彼はあくまで主観だと断ったうえで答えた。

「3分の1くらいになるんじゃないかな」

 ゴーワンはジャマイカで庭師や建設労働者などをしながら生活費を稼いできたが、現在、収入はない。電話会社で働く50歳の長女に養ってもらっているそうだ。

「ワシは結婚したことはないが、2人の女性との間に5人の子供をもうけた。上の3人は女の子、下の2人が男。でも、下の男児たちは1歳にならないうちに亡くなった。病気だよ。ジャマイカの医療は遅れているからな。こっちでなら助かったかもしれない。

そんなダメ親父だったから、交流があるのは長女だけなんだ。他の2人とは長いこと音信不通で、何をしているのかも分からない。長女は、きちんと移民として認められてカナダに入国できた。ワシも出来ることなら、この国で仕事を見付けたいけれど、なかなか難しいよ。ちょっとアメリカでも探してみたけれど、もっと厳しい。不法入国する同胞も後を絶たないが、下手するとジャマイカに送り返されてしまうからな」

 カナダ側のナイアガラ付近には、ブドウ畑が地平線まで広がり、季節労働者としてメキシカンなどの移民が汗を流している。ナイアガラ半島でワイン用に栽培されるブドウ畑は、1万1000エーカーも続いている。

「何度か飲んだけど、美味しいワインだね。ブドウ畑で働くと、いい金になるって聞いたよ。でも、ワシにチャンスはないようだ。74歳と高齢だし、車も持っていないんだ。トロントからナイアガラまで130キロもあるだろう。何とか中古の車でも手に入れられたらいいんだが」

 ゴーワンはジャマイカで生活していた頃も、移動は徒歩であった。一日に20キロでも30キロでも平気で歩いた。

米国のERから届いた1万2000ドルの請求書

「ジャマイカからは素晴らしい陸上選手が生まれるだろう。前回のオリンピックでも目覚しい活躍を見せたじゃないか。それはね、我々が日常的に身体を使っているからだよ。ワシも健康で病気をしないのは、そういう風に暮らして来たからだ」

 暇を持て余しているゴーワンは、今でも毎日3時間くらいは歩いていると言った。

 他愛も無い会話を続けていると、唐突に彼はこんなことを話し出した。

「ワシはジャマイカしか知らない人間だから、寒さがキツイ時もある。でも、アメリカ合衆国よりもカナダに住めて幸せだ。先日、アメリカに住む故郷の友人が事故に遭ったんだ。ER(救急医療室)に運ばれたら、途端に1万2000ドルもの請求が届いたってさ」

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