「ルポ:“弱者”として生きるアメリカ」

「昔、オフクロに言われたよ。『明日を今日よりも素晴らしい一日にしたいのなら、今日と同じことをやっていちゃダメよ』って」

NBAワースト記録の連敗、それでもゲットーから来た男は諦めない

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2009年12月10日(木)

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 NBA史上ワースト記録となる18連敗を喫したNew Jersey Netsが、今シーズン待望の初白星を挙げたのは12月4日のことだった。

(写真/高堂 悠、以下同)
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 対戦相手はCharlotte Bobcats。スコアは97対91。それだけでニュースとなってしまうのだから、Netsが如何なるレベルなのかお分かり頂けるだろう。説明するまでもないが、Bobcatsも9勝11敗と、Eastern Conference、SOUTHEASTで最下位争いを展開中だ (12月10日現在)。

 まるで優勝でもしたかのように、歓喜に包まれるIZOD Centerのコートには、彼の姿が見られなかった。Netsで4番目に高い年俸(525万ドル)を誇り、昨年度はOrland Magicの一員として、プレイオフで目覚しい活躍を見せたレイファー・アルストン(33歳)。

 派手なタイプではないが、ベテランとしてNetsを支える男だ。今期、アルストンは2番手のポイント・ガードとして働いている。目下17試合中、プレーした平均時間は32.5分。

 17連敗となったLA Lakers戦で左膝を痛め、ここ2試合はベンチにさえ入っていない。昨シーズンのアルストンのプレーを記憶するファンにとって、今年の彼の姿はいささか淋しい。

 11月27日、Kingsとの試合のためSacramentoを訪れたアルストンは連敗を15で止めようと、必死の形相でウォーミングアップを続けていた。

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「チーム状態は非常に苦しい。何とかこの状況を打破したいんだが・・・。目の前にある事に全力でぶつかっていく他に、道は無いな」

 アルストンは早口で言った。

「こんな時こそ、バスケットボールへの愛や情熱を思い起こさないとね」

 Kingsの選手が誰も出てこない試合前のコートで、アルストンは若手と共に黙々とシュート練習をこなしていた。

絶望と貧困の中からNBAへ

 ふと、アルストンの足元が気になった。NBA選手なら誰もが有名スポーツメーカーのバスケットシューズを履いているが、アルストンが愛用するシューズは、「AND 1」と呼ばれる “ストリート・バスケット”界で名を馳せるブランドであったのだ。

 NBA選手として今期で10シーズン目を迎えるアルストンは、異例と呼べる道を歩みながら、バスケットボール界の最高峰に辿り着いた男である。

 1976年6月24日、アルストンはニューヨーク、クイーンズで生を享けた。彼もまた、貧困に喘ぐ黒人ばかりが住むゲットーの出身だ。

 生まれ故郷について、アルストンは顔を顰めながら話した。

「絶望的な場所だった。周りは犯罪だらけさ。まともに食事を摂ろうと思ったら、罪を犯すしかないっていうような地区だよ」

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 そんな街にも、至るところにバスケットコートがあった。

「クイーンズがどんな地区だったか説明しろって言われたら、2番目に出てくるのがバスケット・シティーって言葉だろうな。幼い頃から、いつもボールを持っていた記憶がある。オレも近所の仲間たちもトラブルに巻き込まれるのが嫌だったから、毎日公園でボールを追いかけていたよ。バスケットコートは安全だったし、幸福を与えてもらえる場所だったからね」

 物心が付く頃、アルストンはストリート・バスケットで注目される少年となっていた。

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著者プロフィール

林 壮一(はやし・そういち)

1969年埼玉県生まれ、東京経済大学卒。大学時代にボクシングジムに所属し、ジュニアライト級でプロテストに合格するも、左肘に怪我を負いプロボクサーを断念。週刊誌の記者を経てノンフィクションライターとなり、1996年渡米。2006年9月、10年の取材を重ね、黒人でワールドチャンピオンとなった5人のボクサーのその後を追った『マイノリティーの拳』(新潮社)を上梓。以来、弱者の目線から見た米国の姿を追い続ける。著書に『メジャーリーグ・オブ・ドリームズ』(アスコム)、米国底辺校の教育現場に立った経験を綴り、大きな話題を呼んだ『アメリカ下層教育現場』(光文社新書)がある。最新刊は『ドキュメント 底辺のアメリカ人〜オバマは彼らの希望となるか』(光文社新書)。



このコラムについて

ルポ:“弱者”として生きるアメリカ

米国でノンフィクションライターとして働く傍ら、最底辺校に通う子どもたちを教育する現場に立った林壮一氏。過酷な現実と夢を持ち続けようとするたくましさがぶつかり合うアメリカの姿が、『アメリカ下層教育現場』にまとめられている。常に弱者の視点から米国を見つめる林氏に、これまで報じられたことのない、この国のリアルな側面を描いてもらう。その姿は、我々が手をこまぬいていれば、日本の未来の映し絵となるかもしれない。

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