「世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」」

働けど、働けど「かたつむりの家」

テレビドラマが克明に描き出した中国版ローン地獄

バックナンバー

2009年12月18日(金)

1/5ページ

印刷ページ

 中国で『蝸居』という題名のテレビドラマが話題になっている。中国語で“蝸居”とは文字通り「蝸牛(かたつむり)の住まい」を指すが、転じて「狭苦しい家」を意味する。

『蝸居』のポスター
画像のクリックで拡大表示

 この『蝸居』の原作は2007年12月に出版された同名の小説『蝸居』である。原作者はペンネームを“六六”という安徽省合肥市出身の女流作家で、1995年に安徽大学国際貿易部を卒業した後、国際貿易に従事していたが、1999年にシンガポールへ移住し、現在は同地で幼児教育に携わっているという。

 その女流作家“六六”が中国でますます深刻化する住宅問題に一石を投じたのが小説『蝸居』であり、テレビドラマ『蝸居』(全35話)であった。

「住宅の奴隷」では表現が切な過ぎる

 中国では2009年9月20日から江蘇衛星テレビが住宅問題に焦点を当てた『房子』(「住宅」の意味)という題名のテレビドラマ全28話を放映した。このドラマは1960年代、70年代、80年代の各年代生まれの主人公たちが住宅を購入し、そのローン返済に追われて苦悩する姿を描いて高い視聴率を獲得した。

 本来、このドラマの題名は中国の造語である“房奴”(注1)であったが、題名が“房奴”では余りにも「切な過ぎる」ということで『房子』に変更されたのだという。こういう「曰(いわ)く付き」のテレビドラマであったが、住宅問題に苦悩する多くの庶民は身につまされる思いで『房子』を支持したのであった。

 (注1)“房奴”とは、抵当ローンで住宅を購入し、人生の黄金時代を20年から30年にわたって毎年収入の40〜50%、あるいはそれ以上をローンの元利返済に充て、ローン返済に翻弄される都市住民を指す。2007年11月2日付本リポート「中国の造語に「奴隷」という言葉が増えている」参照。

 その『房子』に続いて住宅問題に焦点を当てたテレビドラマが『蝸居』であった。『蝸居』は2009年7〜8月から一部の地方テレビで放映されて評判となり、全国的に放映を望む視聴者の声が高まった。

 こうした要望に応えて、北京テレビの「映画・テレビチャンネル」が11月5日に放映を開始、11月16日には上海の東方衛星テレビが放映を開始し、これに続いて全国の地方テレビ局が次々と放映を開始したのであった。

 ただし、当初は全35話で放映されていたが、ドラマの中の台詞(せりふ)に性的な表現やB型肝炎患者に対する差別的表現が含まれていたことから、テレビ局によっては一部を削除した上で全33話に再編集したものを放映しているという。

大都会「江洲」、実は上海を想定

 では、その話題のテレビドラマ『蝸居』とはどのような内容のドラマなのか。全編は全35話(一部の地域では全33話)と長いが、その概要は次のようなものである。

 1988年、長江が海へ流入する河口の三角州に繁栄する大都会“江洲”(架空の都市名、注2)の大学を卒業した郭海萍は、そのまま江洲に残留して働くことを決意し、少しでも早く頭金を貯めてマンションを購入することを夢見る。

 (注2)実際は上海を想定しているが、後述する主人公の1人である宋思明が「市長秘書」という役職で汚職により失脚することから、上海と特定することが出来なかったもの。

 その後、蘇淳と結婚した郭海萍は広さわずか十数平方メートルという小さな部屋で新婚生活を始める。トイレと台所は隣人たちと共有という苦しい生活が5年を過ぎた頃、2人には子供が生まれる。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント11 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

北村 豊(きたむら ゆたか)

北村 豊

住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト
1949年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。住友商事入社後、アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、2004年より現職。中央大学政策文化総合研究所客員研究員。中国環境保護産業協会員、中国消防協会員



このコラムについて

世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」

日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン

日経ビジネスからのご案内