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「弱者」が弱者を救うことの難しさを知る

「非行少年をボクシングで救いたい」と言った牧師とのその後

  • 林 壮一

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2010年1月7日(木)

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「時が経つのは早い。本当に大きくなったね」

 ジムのオーナーが、息子の頭を撫でながら言った。小学一年生の息子はこの日、10歳の少年と真剣勝負のスパーリングを2ラウンズこなした。

 私は今でも時々、ストレス発散のためにサンドバッグを叩きに行く。原稿に追われて消耗が激しかったり、気持ちが沈んでいる時期には、週に3回ほど通うこともある。

 息子が2歳になる直前、ちょっとボクシングを見せてみるかと、オムツの上にトレーニングパンツを穿かせてジムに連れて行った。それから4年半、彼はメキシカン・ジムのジュニア・チームで汗を流すようになった。

 一年前のクリスマスの日、ひとつ年上の少年を相手に初めての殴り合いを経験し、息子はかなり打たれた。帰りの車の中で泣きじゃくり、「パパ、今度は絶対にKOするよ!」と語ったことが忘れられない。

 とはいえ、息子はバスケットボール、フットボール、サッカー、そしてテニスにも興味を示し、ボクシングへのプライオリティーは下がっていった。
 夏から正式にチームの一員となったバスケットボールでは、試合に出場し、得点王となったこともある。

「僕、バスケットの方がボクシングより好きだな」

 最近の彼は、そんな風に話す。息子の選択なので、親としては見守るだけだ。

「お前が選んだものを、とことんやってみなさい。ただ本気でスポーツをやるなら、今後どんどんトレーニングは厳しくなっていくよ」

 つい先日、そんな言葉を掛けた。

 年末、「今日は久しぶりにジムで練習するけれど、お前も行くか?」と訊ねると、息子も付いてきた。私たちがバンテージを拳に巻いていると、10歳の少年が、息子にスパーリングを申し込んできた。

「やるよ」

 息子は答えた。
 相手は太っちょで、あまり運動神経の発達したタイプではなかったが、4歳年上に怯まずに向かっていき、互角以上の打ち合いをしたので、親馬鹿ながら息子の闘志を称えてやりたかった。

 ジムのオーナーであるマニュエル・アルセも同じ気持ちだったようで、何度も「ナイス・ファイト!」と息子の肩を叩いた。

助力を頼まれ、快諾したのだが……

「ジュニアが生まれて、もう6年半か。昨日のことのようだね」

 メキシコから不法入国してワーキングビザを得、現在はアメリカ国籍の孫を持つ彼は言った。

「そうですね。あっという間ですね」
「人生なんて、そんなもんかな」
「ええ」

 息子がファイトした後のリングでは、プロ選手たちのスパーリングが始まった。その様子に視線を送りながら、アルセは語った。

「右の彼は元ギャングさ。何度が逮捕されている。ここに通い出した頃は、社会のルールを何も理解していない子だった。言葉遣いも、それは酷かったね。でも今は、建設労働者として真面目に暮らしている。随分と変ったもんだよ」
「よくジムで見かける顔ですね。彼は今、何歳ですか?」
「22だったかな」
「例の件、申し訳ありませんでした」

「いやいや、そんなつもりで話したんじゃない。気にしないでくれよ。私自身もユースセンターでボクシングを教えたことがあるが、このスポーツは誰かに勧められてやるようなものじゃない。己で決断してジムに通う子じゃないと続かないよ」
「ですね。それにしても、僕の判断が甘かったと反省しています」

 昨年11月12日に掲載された本連載で私は、レスリー・ウィリアムズという名の牧師を取り上げた。ウィリアムズは、「近々、ユースセンターをオープンし、非行少年をボクシングで更生させようと考えているので、力を貸してほしい」と私に頼んできたのだった。

コメント10件コメント/レビュー

アメリカの経済的に恵まれていない層の人には、ウィリアムズさんのような人も少なくないと感じます。思いつきでものを言って責任を取らない、結果的に詐欺めいた結果を招いてしまうというようなことは、残念ながら珍しい話ではないなぁと思います。だからこそ、実行力と継続力のある人を見極める目が必要なのですが、何しろはじめは熱意いっぱいで話すアメリカ人(牧師なら尚更でしょう)、林さんが結果的に騙されてしまったのは仕方ない気もします。そのことを隠さずに書く林さんの誠実さが素敵です。▼子供へのヘルプも大事ですが、そういった環境で育ち、まともな大人になれなかった人を救済することも大事だなと思っています。非常に難しいことではありますが、そういった大人たちをなんとかしないと、無責任な親をもつ子供もどんどん増えてしまいますからね。(2010/01/09)

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アメリカの経済的に恵まれていない層の人には、ウィリアムズさんのような人も少なくないと感じます。思いつきでものを言って責任を取らない、結果的に詐欺めいた結果を招いてしまうというようなことは、残念ながら珍しい話ではないなぁと思います。だからこそ、実行力と継続力のある人を見極める目が必要なのですが、何しろはじめは熱意いっぱいで話すアメリカ人(牧師なら尚更でしょう)、林さんが結果的に騙されてしまったのは仕方ない気もします。そのことを隠さずに書く林さんの誠実さが素敵です。▼子供へのヘルプも大事ですが、そういった環境で育ち、まともな大人になれなかった人を救済することも大事だなと思っています。非常に難しいことではありますが、そういった大人たちをなんとかしないと、無責任な親をもつ子供もどんどん増えてしまいますからね。(2010/01/09)

弱者は経済的な問題ではなく、心の弱さを指すのでしょう。最近の派遣村騒ぎを見ているとそう思います。著者が凡百のライターと異なり、自らの失敗をきちんとフォローして伝えた点は非常に評価します。(2010/01/08)

東京都の公設派遣村でも、(再就職に必要だと考えられる?)費用を、おそらく一ヶ月分前渡ししたら三割の人が派遣村から出て行ったそうです。 「稲むらの炎」の浜口儀兵衛が、地震後の復興活動では働いた人には日当を渡す(月給や前払いにあらず)ことでサボるのを防いだという話を思い出しました。(2010/01/08)

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