「マニラ便り―アジア経済の現場から」

変貌するアジアのサプライチェーン

「リバランス」に素早く対応することが企業成長の鍵

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2010年2月26日(金)

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 中国を含む東アジアが世界の工場といわれるようになった現在、それを可能にしているアジアのサプライチェーンがいま変貌を遂げようとしています。

 世界経済が欧米の消費需要と住宅需要に引っ張られる形で成長し、東アジアが世界中に繊維雑貨、自動車、エレクトロニクス製品などを供給する状況が飽和点に達したうえ、2007年夏に始まった世界金融危機が世界経済の構造変化をもたらしたからです。

 世界金融危機の影響を一番大きく受けたのは自動車やエレクトロニクス製品の輸出に依存する日本や韓国でしたが、中国や東南アジア諸国も相当な影響を受けました。いま東アジア経済が急速に回復しつつあるのは財政金融の思い切った緩和によるものであり、必ずしも持続可能なものではありません。

 今後は、欧米の消費需要や住宅需要の大幅な拡大は期待できないと思われ、東アジア経済は財政金融緩和策に依存せずに持続的成長を図る必要があります。すなわち、欧米の需要に依存した成長から国内や域内の需要に依存した成長に転換(「リバランス」)していくことになり、これに合わせてサプライチェーンも変貌していくことになるでしょう。

 今回は、こうしたアジアのサプライチェーンの変貌について見ていくことにします。

アジアのサプライチェーンの発展

 現在のようなサプライチェーンがアジアに出来上がったことの背景には、円高による日本経済の変質があります。1971年のニクソンショック後の円高、1977年の米国のドル安政策後の円高、1985年のプラザ合意後の円高、1990年のバブル崩壊後の円高と数度にわたる円高は、そのたびに日本経済に産業構造の転換と輸出構成の変化を余儀なくさせました。その過程で、日本企業がアジアに進出し、多くの産業がアジアに移転していきました。

 最初に移転していった先が「四匹のトラ」と呼ばれた韓国、台北チャイナ(台湾)、香港、シンガポールであり、ついでタイ、マレーシア、フィリピン、インドネシアなどのASEAN原加盟諸国に移転し、いまや中国やベトナムが主要な移転先になっているのです。

 もちろん、日本経済の変質だけがアジアのサプライチェーンの発展をもたらしたというわけではありません。アジア諸国が教育を充実させるとともに、各種インフラを改善し、自国に適合する産業を育成してきたことが大きく貢献しています。また、日本とアジア諸国が海に面しており、海上輸送というもっとも低コストの輸送が可能だったことも寄与していると思われます。

 いずれにせよ、各種産業が次々に移転していったことは、日本を含むアジア諸国が密接な産業連環で結ばれるようになったことを意味します。産業が移転したといっても、繊維、家電、エレクトロニクス、自動車などの産業がそっくり移転したわけではなく、むしろ水平分業が広がっていったからです。たくさんの中間財取引が域内諸国間で行われるようになり、アジアに緊密なサプライチェーンが出来上がっていきました。

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著者プロフィール

黒田 東彦(くろだ・はるひこ)

黒田 東彦アジア開発銀行(ADB)総裁。1944年生まれ。67年東京大学法学部卒業後、大蔵省入省。71年オックスフォード大学経済学修士。96年財政金融研究所長、97年国際金融局長、98年国際局長。99年7月から3年半にわたって財務官を務める。2003年3月内閣官房参与、同年7月から一橋大学大学院経済学研究科教授を兼務。2005年2月から現職。著書に『元切り上げ』『通貨の興亡』『財政金融政策の成功と失敗―激動する日本経済』など。『経済危機は9つの顔を持つ 』(8月12日発売)では、経済学者の竹森俊平氏と行った対談を収録。



このコラムについて

マニラ便り―アジア経済の現場から

アジア開発銀行(ADB)は世界の67カ国が加盟する国際機関であり、1966年に創設されて以来、その本部はフィリピンのマニラにあります。そして、北はモンゴルから南はインドネシアまで、東は太平洋島嶼国から西はグルジアまで、広くアジア・太平洋の開発途上国の経済発展を支援しています。そこで、「マニラ便り―アジア経済の現場から」と題して、日本から見たものとは少し違ったアジア経済の現場に関する情報を発信していきたいと思います。

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