「ルポ:“弱者”として生きるアメリカ」

「仲間のために働くことこそ、スランプに耐える方法だ」

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2010年3月4日(木)

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 1975年7月20日にアメリカ空軍基地で産声を上げた少年は、親の配属に伴い、ドイツ、イギリス、米国内ではオクラホマ州、カリフォルニア州、サウス・キャロライナ州などを転々とした。5人きょうだいの3番目。

 父親は空軍内で、溶接のスペシャリストと呼ばれていた。母親はアーカンソー州の綿花畑で土まみれになって働く幼少期を過ごしている。彼女が空軍に入隊した理由は外の世界を覗いて、視野を広げてみたかったからだ。空軍は、ほぼ3年ごとに転属となる。彼女にとって、新しい土地で生活することは冒険であり、刺激でもあった。

 両親が軍人であったから食うには困らないし、基地内の教育は充実している。そんな状況下で少年はバスケットボールと出会い、腕を磨いた。

(写真/高堂 悠、以下同)
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 高校に入る頃には全米で指折りの選手に成長し、サウス・キャロライナ州最強チームを率いるようになる。コネチカット大学に進学すると、さらにビッグネームとなっていった。

 強豪、ボストン・セルティックスのシューティング・ガード、レイ・アレン。2008年にチャンピオンとなり、9度オールスターに選出されたエリート選手である。次の誕生日で35歳となる彼を「ピークを過ぎた」と報じるメディアもあるが、現在もNBAのトップ選手として活躍し、1800万ドル強の年棒を稼ぐスターだ。

スパイク・リーの映画に準主役で出演

 アレンは若手時代、スパイク・リー監督の映画「He Got Game」に準主役として出演した。主役は、あのデンゼル・ワシントンだ。

 「He Got Game」の粗筋を記しておこう。

 住まいは黒人街の小さなアパート。所謂ゲットーである。アパートに隣接されたコートで、父親は来る日も来る日も幼い息子にバスケットボールを教えた。息子が人生を切り拓き、貧困から抜け出すには、他に術が無いと信じていた。

 ある日、スパルタ指導に嫌気がさした息子は父に反抗する。ボールを放り投げ、自宅に戻った。夕食のテーブルに着いても、父は息子への説教をやめない。それを止めようと間に入った母親を、父は殴り倒す。母は、その一打が原因で命を失ってしまう――。

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 数年後、高校バスケット界のスーパースターとなった息子は、数々の大学やエージェントから甘い言葉を囁かれる。周囲の大人たちも金を握らされ、天才プレイヤーの説得係を命じられる。収監されている父親もであった。

 スパイク・リーらしく、黒人社会を鋭く抉った作品だ。映画が公開された1998年、私はアメリカンの記者仲間に「お前好みの映画だから、絶対に観ろ」と言われ、シアターに足を運んだ。息子役を演じたレイ・アレンを知ったのは、同作品においてである。

 名門ボストン・セルティックスのまとめ役であり、ベテランとして安定したパフォーマンスを見せるアレンは、紳士として知られる。1月下旬、試合前の彼にマイクを向けてみた。スクリーンの彼より老けてはいたが、笑顔は変わらない。

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著者プロフィール

林 壮一(はやし・そういち)

1969年埼玉県生まれ、東京経済大学卒。大学時代にボクシングジムに所属し、ジュニアライト級でプロテストに合格するも、左肘に怪我を負いプロボクサーを断念。週刊誌の記者を経てノンフィクションライターとなり、1996年渡米。2006年9月、10年の取材を重ね、黒人でワールドチャンピオンとなった5人のボクサーのその後を追った『マイノリティーの拳』(新潮社)を上梓。以来、弱者の目線から見た米国の姿を追い続ける。著書に『メジャーリーグ・オブ・ドリームズ』(アスコム)、米国底辺校の教育現場に立った経験を綴り、大きな話題を呼んだ『アメリカ下層教育現場』(光文社新書)がある。最新刊は『ドキュメント 底辺のアメリカ人〜オバマは彼らの希望となるか』(光文社新書)。



このコラムについて

ルポ:“弱者”として生きるアメリカ

米国でノンフィクションライターとして働く傍ら、最底辺校に通う子どもたちを教育する現場に立った林壮一氏。過酷な現実と夢を持ち続けようとするたくましさがぶつかり合うアメリカの姿が、『アメリカ下層教育現場』にまとめられている。常に弱者の視点から米国を見つめる林氏に、これまで報じられたことのない、この国のリアルな側面を描いてもらう。その姿は、我々が手をこまぬいていれば、日本の未来の映し絵となるかもしれない。

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