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現実の前にはボランティア教師など“道化師”だろう。それでも…

Opportunity Schoolで教えてみる【その18】

  • 林 壮一

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2010年3月18日(木)

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(前回「タイソンはなぜ1億ドルも稼いだのに破産したと思う?」から読む)

 ドアを開けると、いつもより教室が騒がしかった。テイラー・ハーパーが手を広げながら言った。

「今日のAは、あなたの授業を受けられるの。そのために必死で課題をこなしたのよ。褒めてやって」

 Aの頭を撫でると、彼は照れたように笑った。
(これまでの経緯については、「賢く強く健気な子に、何もしてあげられないのか?」の回を参照)

 Aの隣に、170センチ近くありそうな大柄な5年生の少年と、細く、浅黒い肌の5年生の少女が佇んでいる。

「ソウイチ先生っていうんでしょ」

 大柄な少年が話しかけてきた。既に私の話が伝わっているらしかった。

 新たな生徒が入って来たということは、また1から、「あ、い、う、え、お」を教えなければならない。授業を進めようと思って準備しても、なかなか思い通りに運ばないのがOpportunity Schoolである。

 ニューフェイスの少女(Dと呼ぶ)は、「日本語を習うのを楽しみにしていました」と語った。大柄な少年Eも、笑顔を向けてくる。

 再び「あ、い、う、え、お」そして、「僕・私の名前は●●です」からのスタートだ。

明るい笑顔、春のような日差し

 40歳を超えた私は、今更新しい言語を習おうとは思わない。その時間があるのなら、もっともっと英語力を伸ばしたい。しかし、小学生の子供たちには、異国の言葉を真剣に学ぼうという意欲がある。つまりそれは、再生教育を受け、人生を構築することが可能なことを意味している。問題児として同校に送り込まれている彼らだが、フレッシュな若さが私には眩しい。

 AとCにとっては繰り返しになるが、彼らも大声で50音を読み上げた。ボクサーになりたいというCの声は特に大きい。

 この日は春のように温かく、窓から教室に入ってくる光が、子供たちを優しく包んでいるように見えた。

「しっかりノートを取れよ。ひとつでも多く覚えて帰っておくれ」

 4人それぞれが私の言葉に反応し、ペンを動かす。彼らの未来に役立つとも思えない授業だが、問題児たちにはこの空間が必要なようだ。

 Opportunity Schoolに通うようになって、50音を教えるのは何度目になるだろうな、と思いながら1時間が過ぎる。どの生徒たちも明るい笑顔を浮かべていたので安心した。

「先生、今日もミット打ちやってよ!」

 Cが声を上げた。

「いいよ」

 応じると、AとEも「僕にもお願いします!」と言ってきた。

 授業終了のチャイムが鳴ると4人は各々のコンピューターの前に座り、リサーチを始めた。私は、テイラー・ハーパーのオフィスに入った。
新たな生徒について、ハーパーから説明を受ける。

「Dは、実の叔父からセクシャルハラスメントを受けていたの。心に深い傷を負っている」

 返す言葉が無かった。

コメント6件コメント/レビュー

涙が止まらなかった。私の親族の子どもたちも親の離婚等で近い状況にある。悪事は必ず子どもたちに影響が及ぶし、良い手本や周囲の支えは確実に子どもたちを健全にする。次代を担う子どもたちの心が折れない様に願う。そのためのシェルターや特別校、専任の教師や支援者を用意すべきだろう。次の社会を築くためにも。(2010/03/19)

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涙が止まらなかった。私の親族の子どもたちも親の離婚等で近い状況にある。悪事は必ず子どもたちに影響が及ぶし、良い手本や周囲の支えは確実に子どもたちを健全にする。次代を担う子どもたちの心が折れない様に願う。そのためのシェルターや特別校、専任の教師や支援者を用意すべきだろう。次の社会を築くためにも。(2010/03/19)

大きな心の傷を受けながら、物語を素直にまっすぐ理解できる能力ってどこから来るのか。やはり子供って可能性の塊ですね。だから、筆者もめげずに接することができるのだと思います。回りの大人ができることってもっとありそうな気もしますが、子どもに選ばれているのですね、大人が。選ばれる大人になりたいものです。(2010/03/18)

リノ元在住者です。今回は、いつになく切ない内容でした。日本にも似たような(アメリカに比べればまだましかもしれませんが)環境におかれ、捨て去られる子供がいます。誰かが手を差し伸べなければいけないのに、多くの人は重責を担えないでしょう。林先生のやられていることは、決して道化師ではないですよ、必ずや芽を出すと信じています。次回が待ち遠しいです。(2010/03/18)

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