「ルポ:“弱者”として生きるアメリカ」

「タイソンはなぜ1億ドルも稼いだのに破産したと思う?」

Opportunity Schoolで教えてみる【その17】

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2010年3月11日(木)

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(前回「賢く強く健気な子に、何もしてあげられないのか?」から読む)

 翌日も少年Aは私の授業を受けられなかった。なので、少年Cとの個人レッスンになった。

「今日も眠たそうだな。また遅くまで働いたのか?」
「うん・・・」

 Cの左目の上には傷があった。

「どうしたんだい?」
「フリーマーケットで喧嘩になっちゃって」
「ボクシングを使っていないだろうな?」

 私はかなりきつい口調で咎めた。

「少し、パンチを出した・・・」
「約束を破ったのなら、俺はもうお前にボクシングを教えないよ」
「違うよ! 先生。自分を守るためには仕方なかったんだ。仕掛けて来たのは向こうなんだから」
「とにかく、今日は教えない」
「ごめんなさい」

 前日に続いて、教室の隅からAがチラチラと我々に視線を送っている。

 この日、私はCに日本語で曜日を教えた。数同様、非常に飲み込みが早い。ノートもきちんと取るし、集中力も切れない。

「今日は何曜日だ? 日本語で言ってごらん」

 そんなふうに問いかけても、正しい答えが返って来る。

 次に「僕の誕生日は●月×日です」を教え、母親や兄のバースディを日本語で説明してみろと伝えた。

母親の誕生日を知らないC

「知らないや、ママの誕生日がいつだか」
「嘘を言うなよ」
「本当に知らない」
「お兄さんのも?」
「うん」

 シングルマザーの下で育ち、ギャングの実兄が人を刺し、収監されていることは知っていたが、家族の絆が希薄なのかな、と案じる。

「眠いか?」

 Cの目の下には隈がある。それを指差しながら、私は質した。

「ちょっとね」
「じゃあ、『僕は眠たいです』って言ってみようぜ」

 と、私は3つのセンテンスをホワイトボードに記した。

 ぼくは、きのう、とてもながくはたらきました。
 ぼくは、つかれています。
 ぼくはねむたいです。

 発音してみろと促すと、Cは口を尖らせ、必死でホワイトボードに書かれた文字を読み上げた。

「いいねぇ。飲み込みが早いねぇ。3つとも覚えちゃおうねぇ!」

 褒めると、Cはやる気を見せる。
 だが、顔に疲労の色が滲んでいるので、わたしは40分ほどで授業を切り上げた。

「バスケットでもやろうか? リフレッシュになるかもしれない」

 Opportunity Schoolには小さな庭があり、180センチくらいの高さのリングが備えられている。10分弱、私は彼とフリースローをして遊んだ。

 シュートを打ちながら、彼に質問した。

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著者プロフィール

林 壮一(はやし・そういち)

1969年埼玉県生まれ、東京経済大学卒。大学時代にボクシングジムに所属し、ジュニアライト級でプロテストに合格するも、左肘に怪我を負いプロボクサーを断念。週刊誌の記者を経てノンフィクションライターとなり、1996年渡米。2006年9月、10年の取材を重ね、黒人でワールドチャンピオンとなった5人のボクサーのその後を追った『マイノリティーの拳』(新潮社)を上梓。以来、弱者の目線から見た米国の姿を追い続ける。著書に『メジャーリーグ・オブ・ドリームズ』(アスコム)、米国底辺校の教育現場に立った経験を綴り、大きな話題を呼んだ『アメリカ下層教育現場』(光文社新書)がある。最新刊は『ドキュメント 底辺のアメリカ人〜オバマは彼らの希望となるか』(光文社新書)。



このコラムについて

ルポ:“弱者”として生きるアメリカ

米国でノンフィクションライターとして働く傍ら、最底辺校に通う子どもたちを教育する現場に立った林壮一氏。過酷な現実と夢を持ち続けようとするたくましさがぶつかり合うアメリカの姿が、『アメリカ下層教育現場』にまとめられている。常に弱者の視点から米国を見つめる林氏に、これまで報じられたことのない、この国のリアルな側面を描いてもらう。その姿は、我々が手をこまぬいていれば、日本の未来の映し絵となるかもしれない。

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