「とにかく電話をかけまくれ!」
春節(旧正月)も終わろうとする2月のある日、蘇州の工業団地にある日系の電機部品メーカーの人事部長の檄が飛んだ。
春節明け、どれくらいのワーカー(工場作業員)が帰省先から戻ってくるか全く読めない。
食事も各種補助も充実させるが…
この電機部品メーカーでは、春節前に、ワーカーに対し例年より少し多めのボーナスを支給し、中国人人事担当が、休暇が終わってもちゃんと帰ってくるよう、事前の説得をした。そしてワーカー一人ひとりの携帯電話番号を聞き出し、休暇も終わる頃、担当者が手分けして、電話をかけまくった。
その甲斐あって、この工場のワーカーの帰還率は、80%とまずまずの水準となった。それでも「二直(1日2交代勤務)」が精一杯。単純計算で人員がその1.5倍必要になる「三直」までもっていくのは不可能だという。
「ひやひやものでした」とこの人事部長は胸をなでおろす一方、「これからが、また大変です」と顔つきを引き締める。同じ工場団地内でのワーカーの引き抜きがあるからだ。
日系企業同士では、お互いの足を引っ張るようなことはやめようという暗黙の協定ができている。しかし、自社のワーカーを引き留めるため、待遇改善は待ったなしだ。従業員食堂で出す食事の質を上げ、会社の補助を増やし個人負担を下げる、医療費に補助を出す、寮を提供するなどなど。
ブローカーの紹介料は1につき500元
噂は速い。「あっちの工場の方が待遇が良いぞ」といった評判が立つと、ワーカーの“集団離職”が始まる。人材ブローカーも暗躍している。ワーカーを紹介すると、企業から1人につき500元(1元=約13円)の紹介料を取るのだ。
上海のある電子部品工場では、昨年の離職率が70%にも上った(在籍していた従業員のうち、1年間で70%が辞めた)という。ちょっとでも職場に不満があれば、出社してこなくなる。もう、いくらでも職がある。嫌になったら別の工場に行けばいい、というわけだ。
「これまでのツケが一度に押し寄せてきた、という感じですね」。上海に中国本社を置く機械メーカーの人事部長は言う。「ワーカーは使い捨て」という“常識”が覆った。特に、昨年の会社の対応がワーカーの会社に対する不信を決定的なものにしたのだという。
ほぼ1年前、リーマンショックが吹き荒れ、いずれの工場も、生産は前年の3割、4割まで落ち込んでいた時期、春節は、「雇用調整」の絶好の機会だった。どこの工場でも、春節後の「帰還率」は60〜70%前後という。春節後、追加採用をしなければ、放っておいても3〜4割の人員削減になるのだ。
多くの日本企業は、この数年、ワーカーの安定的な採用が難しくなってきつつあるのを感じ、ワーカーを安定的に確保するため、地方の高校や専門学校などを訪問し、自社への就職を働きかけていた。それが、リーマンショック後の昨年、手のひらを返すように、採用を中止してしまった。
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