「コネチカットの庭から見た日本」

ネットでよみがえった中世的「むら」消費

「草食男子」と「森ガール」が買い物に魅力を感じないワケ

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2010年3月29日(月)

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 数年前、ブータンのジグメ・ティンレイ首相は、ブータンにとっての進歩の意味について語る講演でニューヨークを訪れた。国民総生産(GDP)や経済成長などの一般的な数値にとらわれるのではなく、ブータンは「国民総幸福量(GNH)」という独自の基準を創り出していた。これは、経済や教育、健康そして環境分野の数値をかけ合わせたもので測れるのだそうだ。

 ティンレイ氏がチェルシーにあるルービン美術館で講演した際のことを私は鮮明に覚えている。彼の人間的な魅力のせいでもあるが、講演のタイミングが絶妙だったのだ。その後バラバラに吹き飛んだ金融システムに、亀裂が広がり始めていた頃だったからだ。当時ベア・スターンズは既に破綻し、そしてリーマン・ブラザーズもそれに続こうとしていた。

 暗いホールに座って彼の話を聞いているそばから、GNHが米国や世界の経済大国に真剣に捉えられるようになるには時間がかかるだろうと感じた。GNHという発想は、経済的により明るい時代に合った考え方で、繁栄しているからこそ考えることができるものだ。

 経済的に困難な状況にいる時、我々のマインドは幸福のような抽象的な考えから遠ざかり、数値にして表せる雇用や商売についてしか考えられなくなるのだ。不景気においては、常にそうであろう。

「今必要なのは雇用で幸福など論じている場合ではない」

 総選挙を控えた現在の英国に目を向けてみよう。数週間前までは、与党である労働党が野党である保守党に敗退するのは当然だと思われていた。労働党は13年間政権を握り、最近2年間で深刻な不況を経験している。国の財政も危機的状況にある。そんな中、保守党は自らを変革の政党、また慈悲に満ちた、経済政策の面からみても有能な政党であると謳った。そして、ブータンのGNHの基準についても称賛した。

 しかし、選挙を間近に控える今、労働党が再び息を吹き返している。彼らは、このような時代だからこそ、国には経験のある意思決定者が必要なのだと反論する。現代は、緊縮や困窮の時代なのだ。生き残りがかかっている時、幸福などを論じている場合ではない、と。すると、有権者は保守党を見て、そこまでの強靭さがあるのかどうか今度は首を傾げるようになっているという。

 米国では国民の支持を絶頂的に受けたオバマ大統領政権が、瞬く間に経済危機に飲み込まれてしまった。そして、政敵の共和党は、11月の選挙で再び議会を牛耳ろうと躍起になっている。国が減税、規制緩和、そして財政支出の削減を断行できる人物を、そして何よりも雇用を創出できる人物を必要としている時に、オバマ氏は「希望」だ「変革」だ、などと非現実的でのんきなことを言っていると野次るのだ。

 好景気には、企業や政治家そして作家は、魂のある資本主義はあり得るのか、個人は経済的な成功と、生活の満足とのバランスが取れた人生を実現できるのかと問うた。消費が魂を破壊していないかと。しかしながら、このような議論は、この2年間の不況でかき消されてしまった。

 様々な変遷を遂げながら、我々の求めるものも変わってきているのだろうか。そうではないように私には思える。

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著者プロフィール

フィリップ・デルヴス・ブロートン(Philip Delves Broughton)

フィリップ・デルヴス・ブロートンバングラデシュ生まれの英国育ち。1994年オックスフォード大学ニューカレッジを卒業、2006年にハーバードビジネススクールでMBA取得。デーリー・テレグラフの記者としてニューヨーク、パリに勤務。現在は、フリーのジャーナリストとしてフィナンシャル・タイムズなどに寄稿している。近著は『ハーバードビジネススクール 不幸な人間の製造工場』(日経BP)。

関谷 英里子(せきや・えりこ)

関谷 英里子日本通訳サービス主宰。アル・ゴア米元副大統領やマインドマップ開発者のトニー・ブザン氏など一流講演家の同時通訳者。慶応義塾大学経済学部卒業後、伊藤忠商事のブランドマーケティング、日本ロレアルのプロダクトマネジメントの現場で日本語・英語での事業提携交渉やプレゼンテーションの第一線を担い、その後独立。現在通訳者、翻訳家として活躍。著書に一流講演家のプレゼンテーション術を記した『なぜあの人の話に、みんなが耳を傾けるのか』(明日香出版社)。最新刊は『カリスマ同時通訳が教える ビジネスパーソンの英単語帳』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。最新刊は『まさか!?』(ダイヤモンド社)



このコラムについて

コネチカットの庭から見た日本

著者のブロートン氏は、宣教師の父とミャンマー人の母を持ち、英国の工業町、ノーサンプトンで育ちました。オックスフォード大学でギリシャ文学を専攻した後、ジャーナリストとしてのキャリアをスタート。デーリーテレグラフの記者としてニューヨーク特派員時代に9・11を取材し、その功績を認められて31歳という若さでパリ支局長を務めた実力の持ち主です。10年間のジャーナリスト生活を経て「自分の収入や時間を自らコントロールできるようになりたくて、ビジネスを学ぼう」(『ハーバードビジネススクール 不幸な人間の製造工場』より)と思い、2006年ハーバードビジネススクールでMBAを取得。しかし、卒業後に著者が選んだ道は、高額の報酬が得られる企業に勤めることではなく、コネチカット州に妻と子どもと暮らし、庭にある書斎で執筆活動をすることでした。日本、そして世界のさまざまな出来事について、独特の批判的視点でコラムを書いていきます。

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