「世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」」

失業者が2億人いる中国の就職戦線

大卒者の働き口が糞尿汲み取り作業員まで拡大

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2010年4月2日(金)

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 “富士康科技集団(フォクスコム)”<以下「富士康」>という名前を聞いたことがあるだろうか。米アップル社の下請けとしてiPad(アイパッド)の組立を行っている企業と言えばお分かりいただけると思う。富士康は1974年に台湾で郭台銘という創業者によって設立された“鴻海精密集団”が中国大陸に設立した、EMS(Electronics Manufacturing Service :電子製品受託製造サービス)と電子関連部品製造に特化した企業集団である。

 富士康は1988年に台湾から広東省深セン市に進出して工場を建設したのを契機として飛躍的発展をとげ、中国各地に工場を建設して成功を収めている。今では世界中の名立たるIT関連メーカーを顧客とする世界最大のEMS企業であり、従業員総数は世界中で60万人以上、米誌「フォーチュン」の『2009年世界トップ企業500』の109位にランクされている。

朝4時過ぎ、応募者は2000人を超えた

 2010年3月16日夜9時、その富士康の深セン市にある拠点工場である“龍華富士康”の南門前には数百人の群衆が集まっていた。彼らは“龍華富士康”の従業員募集に応募するために集まった、翌日17日6時から始まる応募受付を待つ人々であった。

 富士康は2月の春節で故郷に戻った従業員が復帰しない人数を2〜3万人と想定していたが、最終的には従業員の欠員が5万人に膨らむことが判明し、春節開けの2月下旬から欠員を補充するための大量求人に踏み切ったのであった。この募集に対して連日数千人が応募していることから、応募者は前夜から南門に集まり、一夜を野外で過ごして朝6時の応募受付を待つのが常態化しているのである。

 3月18日付の広州紙「南方都市報」が報じたところによれば、3月16日夜から“龍華富士康”南門に集まった応募者の群は、17日の朝4時過ぎには2000人を超え、身動きの取れない状況になっていたと言う。

 ある応募者は「春節で故郷へ戻る列車の切符を買うために駅で並ぶ時よりも惨めだ。駅ならば雨風を凌(しの)ぐ屋根がついた切符売り場があるが、ここにはそんなものはないから露天で立っていなければならない」と述べた。中国南部の広東省とはいえ、冬の2〜3月は夜12時を過ぎると寒さは募(つの)るが、応募者の数は増える一方で、身体が触れ合い、人々の熱気で汗ばむほどであるという。

「押すな、助けてくれ」罵声が飛び交う騒ぎに

 3月17日朝5時2分、少しでも前に出ようと応募者が後から押しかけたことで、工場側が応募者の待機場所を区切るために設置した鉄柵が傾き始め、10分後には遂に鉄柵が倒れ、前列にいた応募者が将棋倒しとなった。「押すな、助けてくれ」といった罵声が飛び交う騒ぎとなったが、応募者のほとんどが若者であり、負傷者は出なかった。5時30分頃になって、漸く工場の警備員が出てきて応募者を誘導して隊列を組ませたことで、数千人の応募者たちは漸く秩序を取り戻し、男は東側に、女は西側に整列して、工場内に入場したのだった。

 記事によれば、こうした応募者を相手とする飲料水売りやボールペン売りが商売を展開しており、ボールペン売りは1本1元(約13.5円)のボールペンを最高で1日に361本も販売したという。ボールペンの用途は当然ながら応募用紙に記入するためである。

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著者プロフィール

北村 豊(きたむら ゆたか)

北村 豊

住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト
1949年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。住友商事入社後、アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、2004年より現職。中央大学政策文化総合研究所客員研究員。中国環境保護産業協会員、中国消防協会員



このコラムについて

世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」

日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。

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