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世界チャンプと息子、貧民街での誓い

  • 林 壮一

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2010年4月15日(木)

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「子供を育てるようになってみて、親父がどんな気持ちで、お前さんの成長を見守っていたのかが、よく分かるだろう?」
「痛いほどに」
「キミらを守るために45歳までリングに上がって、血みどろになっていたんだぜ」
「はい、理解しています。父は僕の誇りですよ」

 ペンシルヴェニア州フィラデルフィアで生まれ育った25歳のボクサーと向かい合っていた。彼の名はティム・ウィザスプーン・ジュニア。元世界ヘビー級チャンピオン、ティム・ウィザスプーン(52)の長男である。

 間もなく第2子が誕生するジュニアは、結婚を控えていた。第2子はボーイだそうだ。2006年12月に長男が生まれた時、ジュニアは息子を「ティム・ウィザスプーン3世」と名付けている。

 ジュニアは話した。

「初めてあなたに会った時、僕はまだ中学生でした。小学校の最後の学年だったかな? 時の流れは速いですね」
「そうだね。白髪が増えて、こちらは、すっかりオッサンになってしまったよ」
「あなたの息子さんは1年生ですよね」
「そう。娘は、まだ2歳」
「合衆国生まれだから、国籍はアメリカでしょう」
「うん」
「この間生まれたばかりだと思っていたのに、もう小学生だもんな。今度のバースディで7歳ですか?」
「あぁ、7月でね」
「信じられないなぁ」
「14歳だったキミがパパになったことだって、俺には信じられないよ。あの頃は170センチに満たなかったキミが、見上げるほどになっちゃって」
「ハハハ、今は183センチになりました。父ほどデカクはないですけれど」

 礼儀を弁えた好青年である。親の躾がよかったのだろうと、胸が温かくなる。

人生にあがくチャンピオンたち

 1996年の夏、私はアメリカに渡った。理由は「ボクシング・ノンフィクションを書くため」だった。日本ではなく、どうしても本場を舞台に取材したかった。

 自分がボクサーだった頃に憧れたチャンピオンたちとの絆を作りながら、まずは雑誌で記事を発表していった。煌びやかな現役スター選手をレポートすることも楽しかったが、何故か私は人生に足掻きながら拳を振るうタイプに惹かれた。ティム・ウィザスプーンと、この連載で1年前に記したアイラン・バークレー(「『勝つだけでは、拳だけでは、搾取から逃れられなかった』」)は、その典型である。

 付き合い始めた頃、ウィザスプーンに連絡を取るのは骨が折れた。半年近く使用料を滞納し、電話を止められてしまっていたのだ。世界ヘビー級王座に2度も就いた男が、こんな生活をしているのかと、現実に驚いた。

 ウィザスプーンにはジュニアの他に4人の娘がいる。子供はもうけたが、入籍はしていない。アメリカ人には、そんなタイプが多い。しかし、彼は全ての子供を引き取り、父親の義務を果たそうと奮闘していた。

「本音を言うなら、引退して指導者になりたい。でも、現役を続ける方がカネを得られるんだ。1試合で、2万ドルは稼げるからな」

 “元世界ヘビー級王者”という肩書きを買われ、ウィザスプーンは弛んだ身体でリングに上がった。派手なKO勝ちを見せたこともあるが、目を覆う内容でキャンバスに沈んだことも少なくない。

 当初私は記者として彼と接していたが、友人となり、仲間になり、しまいには肉親のような関係になった。セコンドの手伝いを任されたこともあるし、今はブラザーと呼び合っている。

コメント1件コメント/レビュー

ボクシングに何故そこまで執着するのか、私には理解できません。しかし契約社会・ビジネス社会から見れば愚か者でも弱者でも、それでも人生に誠実に対峙して生きる彼らの姿が真の聖者に輝いて見えます。何度でも書きます。マッチョがステータスシンボルのような世界の中で、弱い人間たちの姿が人間らしく映ります。(2010/04/15)

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ボクシングに何故そこまで執着するのか、私には理解できません。しかし契約社会・ビジネス社会から見れば愚か者でも弱者でも、それでも人生に誠実に対峙して生きる彼らの姿が真の聖者に輝いて見えます。何度でも書きます。マッチョがステータスシンボルのような世界の中で、弱い人間たちの姿が人間らしく映ります。(2010/04/15)

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