インド駐在歴20年超を誇るコンサルタント、自称“インドマスター”の鈴木秀一先生のところに、これからインド進出を考えてあれこれ戦略を練るベンチャー企業の田島社長が訪れて相談していく物語。鈴木先生や各分野の専門家の「生の声」を織り込み、インドビジネスの実態を深く細かく解説します。「これぞインド、されどインド」の本音の問答が続きます。まずは、進出に向けての事業アイデアについて何やら相談が始まりました。
登場人物: | |
・田島春男社長 | :インド進出を切望する情熱あふれるベンチャー社長。大阪出身。腰が低く、追い風には乗りたいタイプ。 |
・鈴木秀一先生 | :インド駐在歴20年を超える進出支援コンサルタント。自称“インドマスター”。 |
・ラジーブ先生 | :法務マスター。常に冷静沈着、だがそれ以上にずば抜けた営業力を持つ敏腕弁護士。日本で弁護士事務所での勤務経験あり。 |
・インディラ先生 | :経営マスター。豊富な知識量もさながらに、そこから無尽蔵のアイデアを生み出す美人カリスマ・コンサルタント。日本で政府機関での勤務経験あり。 |
田島春男社長:鈴木先生、今日はインディラ先生とラジーブ先生も交えて、インド進出を狙う上で、どんなビジネスチャンスがありそうか、どうか勉強させてください。経験と知識の豊富な大先生方からの意見をお伺いしたいと思っています。
鈴木修一先生:大先生だなんて。相変わらずですね、田島社長。さて、インドビジネスをどのように進めていくかという点については、まず、インドを正しく理解することが必要です。つまり、多くの日本人が持っている「インド感」は、非常にイメージ先行となっているように思われます。カースト、ターバン、カレーなど独特な文化がある一方で、IT、数学に優れていることなどです。インドでビジネスをするためには、これら先行しているイメージや固定観念について、「本当のところはどうなのだろう」と実態を把握する必要があります。田島社長はどんなビジネスをお考えですか?
田島社長:具体的なビジネスの内容は、これから考えようという段階です。切り口としては、インドになくて他の国で人気があるものはビジネスチャンスになるのかなぁと。実は、先週インドの首都ニューデリーにビジネスチャンスを探しに出張してきた知り合いがいまして。彼は焼肉が大好物なんやけど、インドには焼肉屋がない、と言うてました。「インドで焼肉屋」、どうでしょう?

鈴木先生:なるほど、焼肉屋に目をつけましたか。まず基本的なことを押さえておくと、インドで焼肉屋がない理由は宗教的なものだということを知らなければなりません。インドの約80%の人々が信仰するヒンドゥー教では牛は神聖な生き物です。従って多くのインド人は牛を食べるなんてもってのほかと考えています。インドでビジネスをする上ではインドの宗教についてもちゃんと理解する必要がありますね。
田島社長:不勉強で面目ないです。ほんなら、さすがに神聖なお牛さまを食べるレストランじゃ成功せんのかなぁ。
インドのハードロックカフェでは牛肉が食べられる
鈴木先生:いえいえ、そうとも言いきれないと思います。それがひとつの固定観念です。というのは、インドに駐在している外国人の中には牛肉料理に“飢えている”人もいるからです。韓国系オーナーが一度、デリーで焼肉屋を開業して外国人の間では話題になりました。余談ですが、この焼肉屋はちょっと女性サービスを強調しすぎて、いわゆるインドの風営法違反で閉店に追い込まれたらしいのです。焼肉の裾野は広がりにくいので、やるとすれば高級料理としての位置づけになりますね。
また、デリーなどには「ハードロックカフェ」が営業しています。このハードロックカフェでは、牛肉のステーキも提供していますよ。
インディラ先生:地域的にはインドのシリコンバレーといわれるIT産業の集積都市バンガロールでは、インドで唯一のブランド牛、「バンガロール牛」を食べられますよ。私も先日食べてきました。数年前まではスジが多くて味はいまひとつでしたが、最近は日本の代官山にあってもおかしくないような雰囲気のお店でフィレステーキの味を強みにするレストランやステーキハウスが登場しています。IT産業の集積地なので外国人も多いのですが、インド人もよく見かけるようになっています。1回の食事で750ルピー(約1,500円)とインドでは若干割高ですが。
「クールジャパン」というと平成時代日本のイメージだが、昭和30年代40年代の日本で地道に売れたものが「後進国向けクールジャパン」になるのかもしれない。(2010/06/08)