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モロッコのじゅうたん商人とアップルに共通する売る極意

  • 関谷 英里子,フィリップ・デルヴス・ブロートン

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2010年6月11日(金)

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 iPad(アイパッド)はおろかiPod(アイポッド)やiPhone(アイフォーン)も存在しなかった10年前、米アップルは、倒産寸前の状態から立ち直ろうとする中で、小売業に進出するという驚くべき決断をした。マイクロソフトやデルといった他のコンピューター会社は、既に直営の小売店展開を試み、失敗していた。ハードウエアやソフトウエアを作る能力と、小売店舗を運営する能力は、相容れないものであるかのようだった。

 電化製品の店舗は、駐車場を備えたショッピングモールでないと成功しない、というのが、当時の米国での通説だった。広大なスペースに数多くのモノが並んでいるような「大きなハコ」でないとダメなのだ、と考えられていたのだ。

 しかしアップルに関しては、小売店舗を持つ上で掲げたそもそもの目標が、他社と全く異なっていた。彼らは、店舗を活用して、人々を「スイッチ(=Windows(ウィンドウズ)からMac(マック)への乗り換え)」させようとしたのだ。消費者に「今まで使っているWindows パソコンを捨てて、Macに乗り換えなさい」と働きかけるのである。

面倒くさい「乗り換え」を「魅力的に」するアップルストア

 一度でもパソコンの経験した人なら分かるだろうが、乗り換えは非常に面倒くさい。今あるパソコンの中のファイルを全部移行し、新しいソフトウエアであるMacの使い方を習得しなければいけない。

 アップルストアの存在意義は、消費者にとっての「乗り換え」を、より「容易に」、より「魅力的に」することと定義された。そして、店舗のロケーションには、わざわざ車を運転して行かなくてはならないショッピングモールではなく、多くの人が行き交う都心のど真ん中が選ばれた。仕事の行き帰り、ランチやディナーに出かける度に人々が店の横を通り過ぎる。それによって、アップルが街にとって無視できない存在になることを狙ったのだ。

 アップルは、店舗に最適な物件が見つかると、非常に高いテナント料を払ってでも契約をした。そして外観や内装デザインに大きく投資をし、視覚的に人々の心を強く惹きつけるよう仕掛けた。店の中では、将来の顧客になるかもしれない人々にアップル製品を経験してもらわなければならない、との考えから、商品を触ったり試したり、遊んだりしてもらえるような形にした。

 商品を購入したお客が、ファイルの移行やMacの設定で煩わしい思いをしないよう、店舗スタッフには深い知識をもった人材を揃えた。アップルの初期小売戦略は、人々の消費の「乗り換え」をいかに実現させるか、というところにフォーカスしていた。

 あらゆる「営業」本に必ず書いてあるのが、「セールスを成功させたかったら、買い手が買うにあたっての障害を取り除かなければいけない」という点だ。「この商品は高すぎる」「今持っているものに合わない」「タイミングが悪い」など、買い手は必ず、買わないことへの言い訳がある。

 アップルは、多くの人が「今使っているウィンドウズのパソコンを捨てて新しいソフトウエアやハードウエアに乗り換える事」に躊躇し、恐れを感じるという事を認識し、それを取り除くため、店内での経験を、快適で安心で、わくわくするような魅力溢れるものにした。会社としての大きな賭けであったが、結局これが大きく報われることとなった。アップルストアは現在、世界で最も収益率の高い小売業態の一つである。

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