• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

土地っ子になるYKKの覚悟

「善の巡環」が逆境下の事業支える

2010年6月11日(金)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 南アフリカの領土の片隅に、陸の孤島のように存在する人口約110万人の小国がある。ヨハネスブルクから29人乗りの小型ジェットに乗って約1時間。10人以上もの妻を持つアフリカ最後の絶対君主が統治するスワジランドだ。ここに、ファスナーの世界最大手YKKの工場がある。

 「この前、台湾食材店で豆腐を見つけた時、涙が出そうになった」。この工場にただ1人の日本人として単身で駐在する藤井英人・技術アドバイザーは、そう言って笑う。この国には日本人は12人しかおらず、YKKはスワジランドに進出した唯一の日本企業である。従業員は約130人を抱え、スワジランド内でも最大級の雇用主になっている。

アパルトヘイトへの制裁で南アに参入できず

スワジランド工場で技術指導する藤井英人・技術アドバイザー

 「土地っ子になれ」

 YKKの創業者、故・吉田忠雄氏はかつて、海外に赴任する社員にそう檄を飛ばした。その土地に必要とされる存在になるまで、徹底的に現地に溶け込めと言う意味だ。スワジランド工場はまさに、その創業者の理念をアフリカで具現化したものといっても過言ではない。

 YKKがスワジランドに工場を設立したのは、1977年のこと。当時、南アフリカでは米国向けに製品を輸出する衣料産業が栄えていた。ファスナーの納入先に密着し、現地生産することを海外展開の基本とするYKKにとって、その需要を取り込むために南アフリカへ進出することは、ある意味自然な流れだった。

 しかし、当時の情勢はそれを許さなかった。アパルトヘイト政策を実施する南ア政府に対し、各国が制裁を強める中で、南アへの直接投資は見送らざるを得なかったのである。スワジランドでの工場設立は、アパルトヘイトを回避するための苦肉の策だった。

高いエイズ感染率、夜には閉鎖される国境…

 だが、藤井氏は、「理由はともかく、YKKはこの地に進出した。不都合はついて回るが、YKKには将来を信じて進む決意がある」と言う。

 事業環境の厳しさを挙げれば、いくらでも思い着く。工場までの公共交通機関はなく、YKKがバスを仕立てて毎日、従業員を送迎しなければならない。エイズの感染率は世界最悪の26%に達し、発病により突然、出社してこなくなる従業員もいる。今では診療所を工場内に用意し、検査と予防の啓蒙活動に力を注いでいるために状況は改善したが、藤井氏が2007年に着任してからも合計11人が病気を理由に工場を去ったという。

 この国には発電所がなく、電力は南アフリカからの輸入に頼っている。そのため、電力供給がひっ迫していた金融危機までは停電が絶えなかった。南アとの国境は朝7時から夜10時までしか開いておらず、顧客への納期を早めるにも物理的に限界がある。

アフリカで生きる「善の巡環」

 「Cycle of Goodness」――。

 YKKスワジランド工場の食堂横の壁に張られたポスターに、そう書いてあった。「他人の利益を図らずして、自らの繁栄はない」という創業者の経営理念である「善の巡環」を英訳したものだ。取引先や地域社会の利益を最優先すれば、いずれその利益は自分自身に帰ってくる。短期的な利益追求に走らず、企業と社会の長期的な繁栄を追求する創業者の理念が、アフリカで息づいている。

YKKサザンアフリカのアンドリュー・テイラー社長

 アパルトヘイト終結直後にYKKが南アフリカ国内に設立し、販売・マーケティングを担うYKKサザンアフリカのアンドリュー・テイラー社長は、「スワジランドにあるほかの製造業からは、しばしば愚痴をこぼされる」と笑う。YKKがスワジランド工場で通勤手段やエイズ診断、社内食堂など充実した福利厚生を提供していることで、他社でも従業員からの要求が高まり経営者を困らせているというのである。YKKの取り組みが、スワジランドの雇用条件を底上げする圧力となったのである。

コメント1

「南アフリカ 企業が挑むもう1つのW杯」のバックナンバー

一覧

「土地っ子になるYKKの覚悟」の著者

大竹 剛

大竹 剛(おおたけ・つよし)

日経ビジネス記者

2008年9月から2014年3月までロンドン支局特派員。2014年4月から東京に戻り、流通・サービス業を中心に取材中

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

面倒くさいことを愚直に続ける努力こそが、 他社との差別化につながる。

羽鳥 由宇介 IDOM社長