2010年の全国統一大学入試“全国普通高等学校招生入学考試”(略称:“高考”)は6月7日から9日まで3日間の日程で行われた。今年の“高考”の受験志願者数は全国で957万人となり、昨年より65万人減少した。ちなみに、地域別の受験志願者数は、北京が8万人強で昨年より2万人の減少、上海が6万6000人で過去10年の最低、広東省は61万5000人で初の減少に転じている。今年の合格者数は657万人となる予定で、当初の計画より増大されたのと同時に志願者数も減少したので、平均合格率は7%近く上昇することが予想されると言う。
何点取れるかは採点者の胸先三寸
“高考”の日程は、初日の6月7日が、午前(9時~11時30分)の“語文(国語)”、午後(15時~17時)の数学、2日目の8日は、午前の文科総合と理科総合の選択、午後の外国語であり、一般の受験生はこの2日間で終了した。3日目の9日は特定の地域で科目選択の試験が行われた。受験生が最も緊張するのは最初の試験科目である“語文”であるが、その“語文”試験は一般的に次のような構成になっている:
【1】言語知識と言語表現 | (30分程度) |
【2】文学常識と名句名言 | (5分程度) |
【3】古詩文読解 | (25分程度) |
【4】現代文読解 | (30分程度) |
【5】作文 | (60分) |
“語文”の中で受験生たちにとって最も忌まわしいのは作文である。その理由は、どのような課題が出題されるか予想が付かないし、何点取れるかは採点者の胸先三寸で決められ、予測ができないからである。6月7日に行われた“語文”テストで出題された作文の課題はその日うちにいくつかの例がネットに公表されたが、その例を上げると次の通りである:
【安徽省】 | 清朝の阮元が書いた哲学上の道理を述べた詩『呉興雑詩』から導かれる自己の感想を書きなさい。題材は無制限で、800字以上。 「交流四水抱城斜、散作千渓遍万家。深処種菱浅種稲、不深不浅種荷花」<注1> |
<注1> 読み下し:交(こも)ごも流るる四水は城を抱いて斜めに、散じて千渓と作(な)って万家に遍(あまね)し。深き処は菱を種え、浅き[処]は稲を種う、深からず浅からずには荷花を種う。 | |
【山東省】 | 人生のすべての変化、それらすべてが魅力を持ち、すべては光明と陰影で構成されている。これを材料として800字以上の文章を書きなさい。 |
【重慶市】 | 「難題」をテーマに文章を書きなさい。 |
【四川省】 | 絶え間のない点の連なりは1本の線を構成することができ、平面を構成することができ、最後には立体を構成することができる。人生は不規則な点のようなもので、これらの点は無数の線をつなぐこともできれば、これらの線は異なる平面を形作ることもできる、そして異なる平面は異なる立体を形成することもできる。この文章を参考にして人生の角度から文章を書きなさい。テーマを自分で考え、文字数は800字以上とする。 |
受験生たちは“高考”に備えて作文を書く訓練を受けてきているはずだが、受験という緊張の中で上記のような次元の高い問題を出されたら頭が真っ白になり、普段の実力が出せずに終わる人もいるだろう。中国語の800字というのは、日本語に直すと3倍以上の文字数になるから2500~3000字に相当し、400字詰め原稿用紙なら6~8枚となる。60分間の制限時間内に、「出題の趣旨を解釈し、テーマを決め、構成を考え、文章を書く」という作業を経て作文を完成させるのは一大作業である。しかも、“高考”の成績次第で進学できる大学が決まり、人生の方向性が決まるのであるから、その重要な要素である作文で点数を稼ぐには真剣に取り組むしかない。
昔読んだ、宮崎市定の「科挙」を思い出し、受験生の苦悩と戯言の伝統が連綿と引き継がれている事にはちょっと感動を覚えた。 科挙に受からなかった人たちの中にも、科挙には生かされなかったものの、その才覚で歴史に名を残した人が多いと聞く。0点回答の受験生も、受験以外の面で頑張って成功してほしいな、と思う。(2010/06/18)