「Daimler's made for India mission」
今年2月の涼しいある朝4時。アジア最大と言われるインド南部チェンナイの青果市場に何百台ものトラックが積み荷を載せてやってきた。これは日常の風景だ。
だがその日はいつもと違った。独ダイムラーのドイツ人幹部3人がそこにいたのだ。彼らはインド人社員を通訳にして、トラック運転手たちの意見を熱心に聞いて回っていた。
衝撃を吸収するステアリングやエアバッグ、正面衝突しても緩衝材となって運転手の命を守るフロントにあるハニカムパネルについてどう思うかを聞くことで、彼らは運転手たちの安全に対する考え方をよく理解したようだ。
ダイムラーの幹部を愕然とさせたのは、インドのトラック運転手たちがこうした安全装備にはほとんど興味を示さなかったことだった。運転手たちは、自分たちの安全はトラックの前にぶら下げてあるレモンとトウガラシをつないだお守りと、ダッシュボードに置いているお気に入りの女神像に託す方がよいと考えていた。
欠かせないインド文化への理解
ドイツに戻ったダイムラー幹部は、インドで生産販売する予定のトラックすべてのダッシュボードのデザインを変更した。様々な安全装備を組み込むだけでなく、女神像を置くための平らなスペースも作ったのだ。
世界中でも最も独特で、かつ競争が激しいとされるインドのトラック市場。ここでは迷信とビジネス感覚が不思議に絡み合う。
世界最大のトラックメーカーであるダイムラーは150カ国に進出しており、インドネシアやブラジル、メキシコ、南アフリカ、トルコなど多くの新興国市場ではトップシェアを握る。そのダイムラーが今、全力を挙げてインドに440億ルピー(約880億円)を投じ、チェンナイ近郊に敷地面積400エーカー(約1.6平方キロ)の新工場建設計画を進めている。年間生産能力は7万台の見込みで、小型トラックから大型トラックまで(車両総重量6〜49トン)を生産する予定だ。
ダイムラー・インディア・コマーシャル・ビークルズ(DICV)のアイドアン・カクマズ副社長(製品開発担当)は、「世界中から集めたデータから、一定条件下におけるトラックの耐久年数などを理解しているが、インドではそれだけでは不十分だ」と語る。
彼の言葉は誇張ではない。インドはトラックについての要求水準が世界でも最も厳しい市場の1つで、燃費効率から製品の信頼性、補充品のコストや再販価格まであらゆる面で所有コストを低く抑える必要がある。
DICVのマルク・リストセラCEO(最高経営責任者)は、「インドは途上国かもしれないが、トラック部門のビジネス意識は先進国並みだ。インド人は世界でも最もコスト意識が高い。そのため、燃費効率が高く信頼できる製品を魅力的な価格で提供しなければならない」と言う。
カクマズ氏も、「インドでは製品の耐久性とコストが細かく計算される」と指摘する。
それだけではない。インドはトラックを初めて買う人が全体の3分の1、また小規模運送業者も全体の3分の1を占める。この比率は他国に比べ圧倒的に高く、車種など製品構成も他国とは異なる。
しかも、インドにおけるトラックの利用方法や必要な機能は、まるで広大な大陸であるかのように多種多様だ。地域によって道路事情も運転方法も大きく異なる。これは各地方の文化とも関係している。
加えて、海外メーカーに対する漠然とした不信感がある。海外メーカーはかつてアフターサービスを適切に提供できなかったからだ。
従って、新規参入する海外メーカーはインド市場を理解し、アフターサービスをきちんと提供できない限りインド国内メーカーに太刀打ちできない。インドのタタ・モーターズやアショク・レイランドは既にトラックメーカーとして実績を挙げている。
これが、海外メーカーが長らくインド市場参入を避けてきた理由でもある(例外はスウェーデンのボルボで、販売台数こそ限られているが大型トラック部門で存在感を示している)。
こうした理由から、インド市場は手ごわいが、同時に魅力を増していることも事実だ。
トラックの需要は2018年までに現在の年間20万2000台から2倍以上の50万台以上になると予測されている。政府が進める排ガス規制や安全基準の強化によって新型車の導入が求められている。その結果、販売価格も上がるだろう。
6年かけインド市場の攻略を目指す
ダイムラーはこうした課題に対応すべく、戦略を練りに練っている。そして、インドで浮上しつつある好機に乗じたいと考えている。その最初の決断が、やみくもに既存の幅広い車種から一部を選んで改造するのではなく、インド向けの製品をゼロから開発することだった。
「我々のインド進出は2006年。インド市場を4年間研究し、市場と消費者をよく理解した。当社の最初の製品が市場に出るのは2012年と、インド進出から6年後のことになる」とリストセラCEOは言う。
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