「世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」」

母を尋ねて17年、現代にまれな孝行話

4省で1000の村を尋ね歩いた若者に奇跡が起こった

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2010年7月30日(金)

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 イタリア人のエドモンド・デ・アミーチスが書いた『クオレ(Cuore)』という1886年発行の本の中に『アッペンニーノ山脈からアンデス山脈まで』という物語がある。この物語を原作として制作されたのが、1976年にテレビで放映された『母をたずねて三千里』という名作アニメであった。これはイタリアのジェノヴァに住む9歳の少年マルコ・ロッシが、アルゼンチンのブエノス・アイレスへ出稼ぎに行ったまま音信が途絶えた母親のアンナ・ロッシを探すためにたった1人で旅に出た物語であり、マルコ少年が多くの苦難を乗り越えて母親との再会を果たし、母親とともにジェノヴァへ帰還するまでを描いている。

村人の中から突然に白髪の老婆が走り出て

 マルコ少年の話は物語だが、中国には母親を探し求めた実話で有名な『棄官尋母(官職を棄てて母を尋ねる)』という話がある。これは元代(1271−1368年)に“郭居敬”が親孝行に関する逸話24編を集めて編纂した『二十四孝』という書物に載っているもので、北宋時代(960年−1127年)の“朱寿昌”という人の話である。

 朱寿昌の生母である劉氏は父親の正妻の嫉妬を受けてほかに嫁ぎ、当時7歳で後に残された朱寿昌は生母と生き別れになった。その後、朱寿昌は努力して神宗皇帝(在位:1067〜1085年)の時代に官吏となったが、生みの母である劉氏を忘れることはなかった。歳を取るにつれて生母への思いは募り、官を辞して故郷の揚州(現在の江蘇省揚州市)へ母を探す旅に出る。朱寿昌は母を見つけるまでは決して都の開封へは戻らないと意を決して辛く苦しい旅を続けたが、長旅の疲れに天候不順が加わり風邪を引いた朱寿昌はとある村で行き倒れとなってしまう。旅人に助けられた朱寿昌は問われるままに長旅のわけを語ったが、この話を周囲で聞いていた村人の中から突然に白髪の老婆が走り出たのだった。この老婆こそが探し求めていた生母の劉氏であり、母子は50年振りに再会しひしと抱き合って喜びの涙を流した。こうして朱寿昌は70歳を過ぎた生母と2人の義理の弟を連れて開封に戻ったが、この朱寿昌の話は神宗皇帝に上奏され、神宗皇帝はその親孝行を称えて朱寿昌に復職を命じた。その後、朱寿昌は“朝議大夫”、“中散大夫”と出世を遂げ、70歳で没した。

貧しくとも平安な日々がある日突然に…

 2010年7月16日付の河北省の新聞「燕趙都市報」は、17年間も母親を探し求めてついに再会を果たした、現代版の朱寿昌とも言うべき孝行息子の話を報じた。このニュースは17年間という長い年月に対する驚きと母親の生存を信じた息子の意思と忍耐力に対する称賛で注目を浴び、各種メディアを通じて中国全土に報じられたのだった。

 今を去ること17年前の1993年、河北省広平県張孟郷の南張孟村に住む班家は早くに父親を亡くし、母親の賈書梅と4人の子供が貧困の中で苦しい生活を送っていた。子供の中で最年長の長女は幼少から村外の他人の家に預けられていたし、既に20歳を過ぎていた長男の班発城は出稼ぎに出ていたので、家には次男で13歳の班銀城と二女で11歳の班銀娥の2人が母親と助け合って暮らしていた。貧困生活は厳しいものであったが、母子3人水入らずの暮らしはさほど苦しいとは感じられなかった。そうした貧しくとも平安な日々がある日突然に崩れ去るとは誰も思ってもみなかった。

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著者プロフィール

北村 豊(きたむら ゆたか)

北村 豊

住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト
1949年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。住友商事入社後、アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、2004年より現職。中央大学政策文化総合研究所客員研究員。中国環境保護産業協会員、中国消防協会員



このコラムについて

世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」

日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。

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