「大竹剛のロンドン万華鏡」

「次はお茶」、ネスレの発明は“ジョブズ的”

ドル箱商品「ネスプレッソ」はこうして生まれた(上)

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2010年8月23日(月)

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 ギリシア危機を発端に、一時はユーロ崩壊までささやかれた欧州ですが、ここにあるのは暗い話ばかりではありません。ミクロの視点で見れば、ベンチャーから大企業まで急成長中の事業は数多くあるし、マクロで見ても欧州統合という壮大な実験はまだ終わっていません。このコラムでは、ロンドンを拠点に欧州各地、時にはその周辺まで足を延ばして、万華鏡をのぞくように色々な角度から現地ならではの話に光を当てていきます。

 まず、第1弾は、スイスに本社を構える食品世界最大手ネスレの話。ここ数年、年率約30%で急成長を遂げてきた同社のドル箱「ネスプレッソ」から、パリでお披露目された最新の“ハイテクお茶マシン”まで、知られざるイノベーションの舞台裏を2回に分けリポートします。

 食品世界最大手のネスレは今年9月から、フランスを皮切りに、ある新商品を発売する。「スペシャル・ティー(Special.T)」と名付けられたその商品は、その名の通り、お茶を特別な入れ方で出す家庭用マシンだ。カップ1杯分の茶葉が密閉されたカプセルをそのマシンにセットするだけで、自動的に美味しいお茶を入れてくれる、“ハイテクお茶マシン”である。

 ネスレが9月に発売するカプセルでお茶を入れる専用マシン「スペシャル・ティー」。ダージリンなどの紅茶や中国茶のほかにも、煎茶や玄米茶など25種類のカプセルを用意した

 実はこれ、ネスレがプレミアムコーヒー市場で年間28億スイスフラン(2240億円)を売り上げ、同社で最も早いペースで成長してきた高級ブランド、「ネスプレッソ」のお茶版である。8月11日に発表された2010年上半期の連結業績でも、ネスプレッソは前年比で25%の伸びを記録するなど、急成長の勢いは衰える兆しがない。

 ネスプレッソは、1杯分のコーヒーの粉が密封された専用カプセルを使ってエスプレッソを入れる、独自のコーヒーシステムだ。最近ではハリウッド俳優のジョージ・クルーニーを使って派手な宣伝を世界的に展開していたから、ご存知の方も多いのではないか。スペシャル・ティーは、このネスプレッソの成功をティー市場に持ち込もうという、ネスレの戦略商品なのだ。

カプセルで飲む25種類のお茶

 スペシャル・ティーの価格は、マシンと2つのティーカップがセットになって89ユーロ(約9800円)。カプセルは茶葉の種類によって、紅茶(ブラックティー)はもちろん、緑茶(グリーン)のほか、レッド、ブルー、ホワイトといった日本人には聞き慣れない色のお茶まである。

 さらに、香りの特徴やオーガニックかどうかなどで細分化され、カプセルは合計で25種類にもなる。カプセルの値段は1つ35セント(約38円)だから、1つ40セント前後(約44円、スイスフランの価格をユーロ換算)のネスプレッソと同様に、こちらもプレミアム商品との位置付けだ。

 スイスのレマン湖畔にあるネスレの本社で、発売前のスペシャル・ティーで実際にお茶を飲んでみた。

 記者が選んだのは「Genmaicha(玄米茶)」。温度は熱すぎず温すぎず、確かに適温。味は、想像していたような日本的な玄米茶ではなく、カップを口に近付けると果物のような甘い香りが漂ってきた。伝統的な日本茶とは違うが、どこかおしゃれで美味しい。

ネスレで販売・マーケティングを統括するエグゼクティブ・バイスプレジデントのペトレア・ハイニケ氏

 ネスレで戦略ビジネス部門や販売・マーケティング、そしてネスプレッソを担当するエグゼクティブ・バイスプレジデントのペトレア・ハイニケ氏は、「パリにはティー・ハウスがたくさんあるし、ティー愛好家の味と香りに対する感度は非常に高い。まずは、パリの消費者がどのように受け止めるか、注意深く見てみたい」と話す。欧州各国で順次展開する予定だが、日本での展開は未定だという。

意外と難しい、正しいお茶の入れ方

 スペシャル・ティーの特徴は、その手順の簡単さだ。自宅でお茶を飲む時のことを思い出すと、普段はあまり気にかけることはないが、1杯ずつ美味しいお茶を入れる作業は本来、面倒だし難しいものだ。それは、茶葉の種類よって、最適な茶葉の量や浸出の温度、時間などが異なるからである。

 ティーバッグを使えば簡単だ、という意見もあるに違いない。しかし、「本当に最適な条件で美味しくティーを入れることは、ティーバッグでは難しい」とハイニケ氏は言う。確かに記者自身、紅茶や日本茶を入れるときに、うっかりと急須やポットに茶葉を入れ過ぎたり、ティーバッグを使っても長い時間放置してしまったりと、結構、いい加減だ。

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