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銀行の過失で誘発されたATM犯罪

無期懲役から懲役8年6カ月に減刑されて出所した若者の軌跡

2010年8月27日(金)

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 銀行のATMで現金を引き出そうと残高照会したら、あるはずのない大金が残高として表示された。そんなことは有り得ないと、残高照会を繰り返しても結果は同じ。そこで、引き出し額として実際の口座残額よりも大きな金額を打ち込んで試してみると、その金額が何事もなく引き出せた。これは夢ではなくて現実だ。自分の口座にあるお金は自分の物なのだから、引き出せるだけ引き出そう。こうした立場に置かれたら、それが犯罪になるかどうかなどと考える余裕を失い、冷静さをなくして、闇雲に現金の引き出しに走り勝ちなのが人間の悲しい性である。

10元のはずが100万元になっている!

 雲南省曲靖市陸良県馬街鎮という農村出身の“何鵬”は、2000年9月に雲南省の省都・昆明市にある“雲南公安高等専科学校”<注>に入学した。実家を離れる際に、現金の出し入れに便利だからと、両親が陸良県の県庁所在地にある中国農業銀行の店舗で“何鵬”の名義で口座を開設し、“金穂儲蓄卡(金穂預金カード)”(以下「金穂カード」)と言うキャッシュカードを作ってくれた。

<注>2003年に4年制の本科に格上げされ“雲南警官学院”となった。

 2001年3月2日、何鵬は金穂カードを持って街中にある中国農業銀行のATMに出向いた。残高が10元(当時のレートで約151円)しかないことは分かっていたが、金穂金カードをATMに挿入してから、念のために残高照会をしてみると、10元であるはずの残高はたくさんの「ゼロ(0)」が付いて100万元(同約1510万円)になっている。そんな馬鹿なことがあるはずない。何かの間違いに違いないと残高照会を繰り返してみたが、結果は同じ。頭が混乱し始めたが、物は試しと100元(同約1510円)を引き出してみると、何事もなく100元札が1枚出てきた。驚喜した何鵬はATMを続けて6回操作して合計で4300元(同約6万5000円)の現金を引き出した。

 宿舎に戻った何鵬は普段持ち慣れない4300元もの現金を目の前にして興奮冷めやらず、43枚の100元札を何度も数え直しては喜びに顔がほころぶのを抑えられなかった。ベッドに横になっても眠れない。頭に浮かぶのは100元札ばかり、金穂カードを使えば濡れ手に粟でお金が手に入る。きっとATMが故障しているのだと思うが、同じATMから現金を引き出していると不審に思われるから、明日はいくつものATMを回ってもっとたくさんのお金を引き出そう。こう考えるとなおさら眠れない、何鵬は100元札の山を思い描きながら朝を迎えた。

 翌3月3日の午前中に何鵬は金穂カードを持って何軒かの銀行のATM7台を215回操作して42万5300元(同約642万2000円)を引き出し、2日間で引き出した合計金額は42万9600元(同約648万7000円)となった。そこで何鵬は昨夜考えていた通り、実家の母親に金穂カードを紛失したと連絡したのだった。

罪名は「悪意の超過引き出し容疑」であった

 しかし、現金を引き出してから3日後の3月6日、陸良県公安局の警官が中国農業銀行陸良県支店の職員を帯同して何鵬の宿舎を訪れ、引き出した全額を見つけて回収するとともに何鵬を陸良県公安局へ連行した。翌日には何鵬の実家に逮捕状が届き、何鵬が逮捕されたことが判明した。罪名は「悪意の超過引き出し容疑」であった。ところが、3月12日、何鵬の父親の何建貴が呼び出しを受けて県公安局に出頭すると、何鵬は釈放だと告げられ、釈放証明書に署名すると何鵬は釈放された。その理由は「信用詐欺」を構成しないというものだった。

 何鵬が釈放されてから1カ月に満たない4月6日午前8時、何家に陸良県検察院から「聞きたいことがあるので何鵬は出頭するように」との電話連絡があった。その日県検察院へ出頭した何鵬は直ちに留置所に送られ、何建貴には逮捕状が手渡されたが、そこに書かれていた罪名は「窃盗容疑」となっていた。それから半年後の11月13日、何建貴の懸命の働き掛けが功を奏し、何鵬は保証人を立てることにより保釈された。

 しかし、何鵬はそれから5カ月後の2002年3月に再び収監された。そして、4月9日には“陸良県人民法院(裁判所)”の第一法廷で一審が開廷され、7月12日に無期懲役の判決が下った。これを不服とする何建貴は“雲南省高級人民法院(高等裁判所)”に控訴したが、10月17日付で“高級法院”は開廷審議を行わぬまま控訴を棄却し、何鵬の無期懲役が確定したのだった。

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「銀行の過失で誘発されたATM犯罪」の著者

北村 豊

北村 豊(きたむら・ゆたか)

中国鑑測家

住友商事入社後アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、住友商事総合研究所で中国専任シニアアナリストとして活躍。2012年に住友商事を退職後、2013年からフリーランサーの中国研究者として中国鑑測家を名乗る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官