「オバマと戦争」

米国が大物ロシア人武器商人の引き渡しを求める理由

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2010年9月3日(金)

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ロシア武器商人の米国への引き渡し判決を下したタイ政府

 8月20日にタイの裁判所が世界的に有名な武器商人ビクトル・ブートの米国への引き渡しを命じる控訴審判決を下したことが、国際的な話題となっている。

 ブートは2008年3月にタイのバンコクでタイ警察により拘束されたものの、タイ国内法での容疑がないため、ブートを国際指名手配していた米国への送還をめぐる裁判が行われていた。そもそもブートは米麻薬取締局(DEA)とタイ警察の共同作戦で逮捕されたこともあり、米国は当然自国への引き渡しを主張。一方、ブートの国籍であるロシアも自国への引き渡しを求めてタイ政府に圧力をかけ、この大物武器商人の取り扱いについて、タイ政府は米露の板挟みにあっていた。

 2009年の一審では、「タイには引き渡しの権限がない」としていずれの国にも引き渡しはしないとの判決が出されていたが、今回の判決により3か月以内の米国への送還が決定、この裁判では上告がないため、判決は確定したとのこと。

 米露が国を挙げて獲得競争をするほどのビクトル・ブートとは一体何者か? 裏社会を知り尽くすこの大物武器商人は、国際テロリズム・犯罪ネットワークや、不正資金洗浄のルートなど、国際的なアンダーグランド情報の宝庫のような人物である。ポスト冷戦時代を代表するこの武器商人の、「輝かしい」過去の実績をみてみよう。

世界一のロジスティックス・ネットワークを誇るブート

 ビクトル・ブートがこの世に誕生したのは1967年となっているので、まだ40代前半、本来ならば働き盛りの頃である。彼のロシアの公式パスポートによれば、生まれはタジキスタンとなっているが、2002年にモスクワのラジオインタビューに出演したときにはトルクメニスタンの出身だと自身で語っており、2001年に南アフリカの情報機関が記した報告書ではウクライナ生まれになっているという。

 出生すら不明のこの謎多き武器商人は、80年代終わりにモスクワにある著名なソビエト外国語軍事研究所(Soviet Military Institute of Foreign Languages)を卒業し、英語、仏語、ポルトガル語、ウズベク語や複数のアフリカの言語を身につけ、その後アンゴラの平和維持部隊で通訳として働いたとされている。また英国と南アの情報機関の記録では、85年から89年までローマでKGBの職員として働いたと記されている。

 しかしソビエト帝国の崩壊と同時に、ソビエト空軍全体がメンテナンスのための費用も燃料もなくなり、古いアントノフやイリューシンの機体が廃品置き場に送られそうになる中、当時若干25歳だったブートは、三機の古いアントノフを購入して、当時ソ連邦各地の武器庫で置き去りにされていた武器や弾薬の取引とその運び屋を始めたという。有り余るほどの武器・弾薬が手に入ったちょうどその頃、冷戦秩序の崩壊により世界各地が不安定になり、民族・国境紛争や内戦が世界中で勃発し、そうした武器・弾薬に対する需要は急増。ブートのビジネスはメキメキと拡大した。

 米安全保障会議(NSC)のメンバーで90年代後半にブートの動向を追っていたリー・ウォロスキー氏は、「ブートのロジスティクスのネットワークは世界一である」と『フォーリン・ポリシー』誌の取材で述べている。

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著者プロフィール

菅原 出(すがわら・いずる)

菅原 出

1969年、東京生まれ。中央大学法学部政治学科卒。平成6年よりオランダ留学。同9年アムステルダム大学政治社会学部国際関係学科卒。国際関係学修士。在蘭日系企業勤務、フリーのジャーナリスト、東京財団リサーチフェロー、英危機管理会社役員などを経て、現在は国際政治アナリスト。会員制ニュースレター『ドキュメント・レポート』を毎週発行。著書に『外注される戦争』(草思社)、『戦争詐欺師』(講談社)、『ウィキリークスの衝撃』(日経BP社)などがある。



このコラムについて

オバマと戦争

2009年12月1日、オバマ大統領は3万人の増派を中心とする新しいアフガン戦略を発表した。アフガンは米国にとって「第二のベトナム」になってしまうのか? それともオバマ政権の新しい思考とアプローチは、アフガンの地に安定を取り戻すことが出来るのか? 一方、いまだ治安の安定しないイラクから、米国は無事に撤退をすることが出来るのか? また、大統領選挙の混乱以降、政治不安の続くお隣イランの核開発問題は、これからどのような方向に進んでいくのか? そして、こうした中東の混乱に乗じて北朝鮮はどのような動きを見せるのだろうか? バラク・オバマが政治生命を賭けて取り組むアフガン戦争と、米国の安全保障を左右するイラク、イラン、北朝鮮をテーマに、「オバマの戦争」を追いかけていく。

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