Mark Gilbert(Bloomberg Newsコラムニスト、ロンドン支局長)
米国時間2010年8月25日更新「Interest Rates: The Zero Percent Solution」
一部の観測筋が中央銀行に対して、金融政策を大胆に転換し、超低金利政策を見直すよう求めている。この主張が間違っていたら、緩和政策を支持する多数派意見にかき消されてしまう。だがもし、この異端の主張が正しければ、この大胆な意見は高く評価されることになる。
とはいえ、米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする世界中の中央銀行に対して引き締め政策を薦める異端派は、政策理念以外の思惑で利上げ論を展開しているわけではない。米シカゴ大学ブース経営大学院教授で、国際通貨基金(IMF)元首席エコノミストのラグラン・ラジャン氏は、2005年当時から信用危機を予見していた。そのラジャン教授が現在、FRBのベン・バーナンキ議長に対し、基準金利を段階的に引き上げて、2ポイント程度の利上げを実施すべきだと勧告している。
国際決済銀行(BIS)で金融・経済部門を統括していたウィリアム・ホワイト氏は「低金利は無料ランチのようにメリットばかり提供するわけではない。だが、そのように勘違いしている人が多い」と主張している。
ラジャン教授は「金利を長期にわたって低く抑え込むと、資産価格が上昇する。高リスク資産への投機が活発化し、経済に悪影響を及ぼすことになる。資産バブルが過熱すれば、中央銀行が手を付けられない状態に陥る。預金者にとっては、利子所得が減少するだけではない。預金金利が物価上昇率を下回る状態では、金融資産が目減りする結果となるのだ。また、消費者の景況感の改善が景気回復に不可欠だとしたら、超低金利は真逆の効果を発揮する。景気の先行きに対する期待感を低下させ、消費者も企業も将来に不安を抱くことになる」と語る。
金融機関はリスクをとることなく儲けている
ごく一部だが、こうした意見を支持する有力者も現れている。英国では、イングランド銀行(英中央銀行)金融政策委員会(MPC)のアンドリュー・センタンス委員が、過去3回の委員会会合で1人だけ利上げを支持している。同氏は、英航空大手ブリティッシュ・エアウェイズ(BA、BAY.L)で長年首席エコノミストを務めた経験を持つ。
米国では、米カンザスシティー連銀のトーマス・ホーニグ総裁が、今年5回の政策決定会合すべてで、政策転換を求める少数派意見を述べた。低金利を「今後も一定期間」継続する金融緩和策に反対したのだ。ホーニグ総裁は「金融機関は現在、何もせずに儲けている。連銀からほぼ無利子で資金を調達し、国債を購入。資金をただ政府に戻すだけで、確実に利益を上げている。利上げすれば、金融機関は高いリターンを求めてリスクを取るようになり、経済の活性化につながる」と主張する。
利上げ支持派は、さらに次のように続ける。「現代の中央銀行が政策判断の基準としている教訓は、1930年代の世界大恐慌ではなく、ドイツ経済に壊滅的な打撃を与えた1923年のハイパーインフレだ。中央銀行は“通貨の番人”として、緊急時以外は引き締め政策を好む。信用危機が本当に収束しているなら、金利を上げてインフレ阻止に動こうとするのが自然な反応だ」。
経済危機はまだ終わっていない
こうした反主流的な主張には魅力があるかもしれない。だが、この考えは大きな誤りだ。現状は、危機が収束したというにはほど遠い。金融界に対する政府の支援策によって、金融機関のリスクを政府が抱え込んでいる。問題は、政府を支えるセーフティーネットは存在しないことだ。8月25日、米金融大手モルガン・スタンレー(MS)は投資家向けの調査リポートで、「政府債がデフォルト(債務不履行)に陥る事態も考慮すべきだ。主要先進国でソブリン債の完全なデフォルトが起こる可能性はきわめて低いが、各国政府に対する投資の一部で、損失が生じる事態は十分考えられる」と述べている。
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