「金鋭のなぜ日本企業は中国で勝てないのか」

意外ですか?「中国人社員は経営ビジョンで動く」

「熱く語れない総経理」に優秀な人材はついてこない

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2010年12月17日(金)

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 「総経理(中国語で社長の意味)、うちの会社は何のためにあるのですか?」

 これはある日系企業で1人の従業員が総経理に投げかけた質問です。また、別の企業の入社試験面接では総経理に「会社の方針を聞かせてください」と聞いた志願者がいました。私はこれまで、約2000社以上の日系企業の採用に関わってきましたが、まともに答えられる総経理は一握りしかいませんでした。

 果たして、中国に進出した日系企業にビジョンはあるのでしょうか――?

壁に掲げられた企業理念の秘密

 私は日本生まれ日本育ちの華僑3世。大学を卒業してリクルートに入社し、HR(ヒューマンリソース=企業の人的資源)関係の業界に携わって21年になります。そのうち、中国での業務経験が15年になりました。これまで日系企業に1万人以上の人材をご紹介し、経営を含む人事や採用に関わる課題についてもコンサルティングを行ってきました。

 数多くの日系企業の採用、人事に関わる中でずっと考え続けていることがあります。それは「中国で事業展開をしている日系企業のビジョン」です。

 10月中旬、上海市のある日系企業を訪問しました。その企業の受付の壁に、
「我々が大事にするもの」
「我々の行動規範」
と銘打ったパネルが掲げてありました。よく見ると、それはお客様や社員の行動を含む会社の考えや理念がしっかりと書かれたものでした。私は総経理に会うと、名刺交換もそこそこに質問を始めました。

「総経理、このパネルは日本から持ってきたものですか?」
「中国語で書かれていますが日本のものを翻訳されたのですか?」
「受付の壁にかけると社員が毎日、目を通すので、いい刺激になりますね」
などなど。気が付くと、私は夢中になって質問攻めにしていました。

 日系企業では受付や会議室に日本本社の社長さんの写真やビジョンがよく飾られていますが、そのほとんどは日本本社のものです。この企業の行動規範なども、日本のものであろうと勝手に想像していたのです。

 しかし、総経理からは意外な答えが返ってきました。

「金さん、実はこの行動規範は私が作ったものです」

日本企業はほとんど知られていない

 私は一瞬耳を疑いました。総経理は日本から送り込まれた駐在員であり、任期もほぼ決まっている方です。また年齢も40代半ばで総経理としては比較的若い方でした。

 ますます興味深くなって、そこからまた質問攻めです。聞けば、日本市場が飽和状態なので中国で新しい事業を始めたものの、競合との激しい競争にさらされているとのこと。新会社ということもあって、なかなか会社に合う優秀な人材の確保が難しいということ。

 この総経理の考え方はこうです。優秀な社員を採用できるか、入社後に存分に働いてくれるかは、その企業のビジョンや社風が左右する。だから、会社の命運もそれによって決まってくる――。

 そこで、日本のものを参考にしながら、お客様や社員に対する考え方を自分で中国流にまとめなおしたそうです。私は感嘆し、しばらく言葉を失いました。ビジョンや行動規範を中国流にアレンジして自らまとめ上げる総経理は日系企業ではめったにいなかったからです。

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著者プロフィール

金 鋭(きん・えい)

金 鋭インテリジェンス中国(英創人材) 総経理
1989年リクルート入社、一貫してHR(ヒューマンリソース=企業の人的資源)ビジネスに従事。1996年に中国新規事業担当。1999年よりインテリジェンス中国(英創人材)の前身で日系企業向け人材紹介会社の草分けでもある上海創価諮詢に共同経営者として経営参加。現インテリジェンス中国(英創人材)総経理。日本生まれ日本育ちの華僑3世。
日本貿易振興機構(ジェトロ)主催及び他社との共催、また自社開催など多数のセミナーにおいて、「中国人事労務」「高級人材の獲得」「中国人事制度」「人事・採用戦略」などに関するセミナーの講師を担当。



このコラムについて

金鋭のなぜ日本企業は中国で勝てないのか

 中国人人材の採用、育成、そして労務管理。これらは中国に進出した日本企業にとって、避けることができず、そして、最も重要となる課題の1つである。ところが、ここでつまずき、壁に突き当たる企業が多いのもまた事実である。
 HR(企業の人的資源)に関わるようになって21年。そのうち15年を中国における日系企業の支援に費やしてきた筆者が、豊富なコンサルティング経験と実例に基づき、この課題の深層を分析し、解決策を綴る。

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