「金鋭のなぜ日本企業は中国で勝てないのか」

「社長が大車輪の活躍」は正しいのか

「育たないから任せられない」ではなく「任せないから育たない」

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2010年12月21日(火)

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 「最近、社員とたくさん話をしていますか」。進出したばかりのある日系企業の総経理(社長)に尋ねました。

 進出前に経営や採用についての相談を受け、いろいろとアドバイスをさせていただいた会社です。中国現地法人の設立から数カ月が経ち、久しぶりにお会いして最近の状況を聞きたいと思って訪問しました。総経理の答えはこうでした。

 「いやー金さん、忙しすぎて社員と話す時間は取れていないですね。日本の本社とのやりとりは大変だし、財務も見ないといけない、立ち上げたばかりだから営業も自分でやっているでしょう。まだ採用もしていて面接も全部やっているからね。それから広告企画もですよ。時間はいくらあっても足りません」

 私は冗談交じりに「肝心の『総経理の仕事』をする時間がないんじゃないですか」と聞き返しました。総経理は笑いながら「本当にそうだね。忙しいと余裕もなくなるし、ずっとばたばたしているから、『私は一体何をしているのだろう』と自問自答することがあるよ」と答えました。その間も、かかってくる携帯電話に慌ただしく対応していました。

すべての職務を兼任する総経理

 これから中国進出をしようとしている企業から、中国事業の責任者の方が訪ねて来ることがあります。「今、市場調査をしていて、事業計画書を書いている」「現地を見ながらいろいろヒアリングをしている」。その状況は様々です。

 先日お会いしたのも、今後、中国で事業展開を考えている会社の担当者でした。日本では有名なサービス業の会社です。訪ねて来た方は、進出後に現地法人で総経理になることが決まっていました。

 中国の人材マーケットにおける採用方法などの話が一段落したところで、彼は私にこう言いました。「まず、通訳と会計担当者を採用して、その後、営業担当者を採用したいと思っています。営業部隊がないと商品が売れませんからね」。

 私はすかさず聞き返しました。「財務や人事、マーケティングはどうされるのですか」。その方の答はこうでした。「会計は日々の活動で必要なので採用しますが、財務は会計担当者に兼務させても最低限の業務はできるでしょう。人事は面接を含めて私が全部やります。マーケティングについては、私が日本のノウハウを持っているし、一番得意な分野でもあるので、とりあえず私がやります」。

では、『総経理の仕事』とは何なのですか

 私は「なるほど」と思いながらこう言いました。「でも総経理、それでは相当忙しくなりますよ。中国は価値観や感覚が日本とはずいぶん違います。会計も通訳も営業もとても大事な職種ですが、財務、人事、マーケティングは現地の人に任せればいいじゃないですか」。

 総経理候補の方は自信たっぷりにこう言いました。「金さん、そこは任せてください。忙しいのには慣れていますし、財務はお金にからむ重要な事なので最初は私が直接やります。少人数でスタートするから人事担当者も今はいりません。専任者をつけたらコストもかかるしね」。

 私は苦笑いしながら「では、『総経理の仕事』とは何なのですか」と聞き返してしまいました。答えは「まず、サービスや商品を売ることです」でした。

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著者プロフィール

金 鋭(きん・えい)

金 鋭インテリジェンス中国(英創人材) 総経理
1989年リクルート入社、一貫してHR(ヒューマンリソース=企業の人的資源)ビジネスに従事。1996年に中国新規事業担当。1999年よりインテリジェンス中国(英創人材)の前身で日系企業向け人材紹介会社の草分けでもある上海創価諮詢に共同経営者として経営参加。現インテリジェンス中国(英創人材)総経理。日本生まれ日本育ちの華僑3世。
日本貿易振興機構(ジェトロ)主催及び他社との共催、また自社開催など多数のセミナーにおいて、「中国人事労務」「高級人材の獲得」「中国人事制度」「人事・採用戦略」などに関するセミナーの講師を担当。



このコラムについて

金鋭のなぜ日本企業は中国で勝てないのか

 中国人人材の採用、育成、そして労務管理。これらは中国に進出した日本企業にとって、避けることができず、そして、最も重要となる課題の1つである。ところが、ここでつまずき、壁に突き当たる企業が多いのもまた事実である。
 HR(企業の人的資源)に関わるようになって21年。そのうち15年を中国における日系企業の支援に費やしてきた筆者が、豊富なコンサルティング経験と実例に基づき、この課題の深層を分析し、解決策を綴る。

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