「歳末車荒」
経済観察報記者 張煦 劉暁林
「この車は壊れたぞ。それでも欲しいやつはいるか?」
北京市内のある自動車販売店。イライラが頂点に達した顧客が、目の前の新車の窓ガラスをいきなりたたき割ってそう叫んだ。彼の予期せぬ行動に、“競争相手”はうろたえて戦意を失った。この顧客は結局、2000元(約2万5000円)の修理代と引き換えに自ら傷物にした新車を手に入れた。彼は得意顔でこう言い放った。
「これで春節(中国の旧正月)に納車が間に合った*。だからかまうもんか。それに、来年になったらナンバープレートの取得費用**をいくら取られるかわかったもんじゃない」
*中国の自動車市場では、家族や親戚が集まる春節を新車で迎えたいというニーズが強く、毎年12月から翌年1月にかけてが新車販売の最大のシーズンになる。
**北京では自家用車の急増による交通渋滞が深刻化しているが、ナンバープレートの発給制限は行われていない。一方、既に制限を導入している上海ではナンバープレートを競売にかけており、取得費用が4万元(約50万円)前後に達している。
贅沢品の奪い合いは前代未聞
12月に入って以来、北京市内の自動車販売店では顧客同士による新車の“分取り合戦”があちこちで演じられている。来年からナンバープレートの新規発給が制限されるという噂が広まり、泡を食った消費者が殺到しているのだ。冒頭のケースは、目下の消費者心理を表した最も極端な事例と言える。
現在、各メーカーの人気車種のほとんどが契約から納車まで1カ月以上待たされる状況になっている。歳末商戦のシーズンに入り、納車待ちの顧客の列は延びる一方。さらに、中古車市場でもタマ不足が深刻になっている。相場の値上がりを見込んで売り惜しみが起きているのだ。
こうして、北京全体が車を買いたくても買えない境遇に陥ってしまった。市民が(生活必需品ではなく)贅沢品を奪い合う事態は前代未聞のことだ。
11月半ば、上海GMの「ビュイック・エクセル」を買おうと決めた黄さんは、年末までの納車は全く問題ないと思っていた。ところが、手付け金を支払って1カ月が過ぎても一向に納車される気配がない。販売店に何度も催促したが、「少なくともあと半月はかかる」と埒があかない。
このまま待つべきか、他の車種に変えるべきか。黄さんを始め、多くの消費者が迷っている。上海フォルクスワーゲンの「ティグアン」が欲しかった胡さんは、販売店で「いつ納車できるかわからない」と聞かされて諦め、東風ホンダの「CR-V」に鞍替えした。それでもずっと納車を待たされている。
「どのメーカーの販売店も、この機につけこんで価格の上乗せ、オプションの追加、自動車保険の契約などを持ち出してくる。応じなければ納車を後回しにされる。消費者の利益を損なうやり方だ」。そう胡さんは憤る。
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