「金鋭のなぜ日本企業は中国で勝てないのか」

賃金を10倍にしないと社員が辞める!?

日系企業が怯える「昇給神話」の虚と実

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2011年1月19日(水)

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 「金さん、至急相談したいことがあるのです。すぐに会社に来てくれませんか」

 1本の電話がかかってきました。普段から親交のある総経理(社長)からでした。私は採用活動の相談かと思ったのですが、そうではなさそうです。興奮した様子の総経理が「話は後。とにかく来てくれ」と言うので、早速、会いに行きました。

 すると総経理は、困り果てた表情でこう言ったのです。「うちの会社の平均賃金を10倍にする方法を教えてくれませんか」。

平均賃金を10倍にしてほしい

 その会社は日本では大企業に属する規模ですが、中国法人はまだ中小規模の会社でした。100%出資で中国に進出して5年なので、現地法人の歴史はそれほど長くはありません。生産工場を持つメーカーで、社員数は約200人です。上海の郊外に工場があり、市内に営業拠点があります。

 「いきなり社員の平均賃金を10倍に? ・・・いったいどうしたというのですか」。そう聞く私に、総経理はこう言いました。「金さん、このままだと社員全員が辞めてしまうかもしれない・・・」。

 総経理の話はこうです。
「弊社は中国に進出して以来、堅実に、そしてまじめに事業を進めてきました。社内の雰囲気も悪くありません。おかげさまで売上も順調です」
「しかし、先日あるコンサルティング会社の方が来ました。賃金調査も行っている会社だったので、うちの会社の賃金水準はマーケットでどれぐらいの位置にあって、弊社の社員はどのぐらいの価値があるのかを聞いてみました」

 つまり、この総経理はコンサルティング会社に賃金調査を依頼したのです。

驚愕の結果だった調査報告

 総経理は事細かに調査概要を私に説明してくれました。まず自社の社員について、その職位や職責についてアンケートに答えます。

 例えば、個別の社員の職位とその名称、等級、職位別の人員の比率、職位別の学歴や経験、マネジメントやプロジェクトの範囲、指揮命令系統と報告の対象、職責及び目標(目標達成度合いを含む)といった項目です。そして、それぞれ現在の賃金を記入します。

 このコンサルティング会社は、この会社の競合会社6社でも同様の調査をしていました。つまり、ライバル会社との間で賃金の比較ができるわけです。6社の中にほかの日系メーカーはなく、欧米系と中国の民営企業だけでした。この総経理は、日系の同業の中では自社の賃金は高い方だと自負しており、私もそう感じていました。

 ところが、そうではなかったのです。総経理は棚の奥から分厚い調査報告書を持ってきて説明を始めました。

 「金さん、とりあえず見てみてください。同じ仕事内容や職位で並べて各社を比較すると、弊社の200人の社員のうち競合会社の平均的な水準を超えている人はわずかだったのです。少しはそういう人もいるかもしれないとは思ったのですが、これほどだったとは・・・」

 ショックを隠し切れない様子の総経理は、こう続けました。「何よりもショックだったのは、全社の平均賃金です。会社の規模に違いはあるものの、弊社の平均賃金はあまりにも低いことが判明しました」。

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著者プロフィール

金 鋭(きん・えい)

金 鋭インテリジェンス中国(英創人材) 総経理
1989年リクルート入社、一貫してHR(ヒューマンリソース=企業の人的資源)ビジネスに従事。1996年に中国新規事業担当。1999年よりインテリジェンス中国(英創人材)の前身で日系企業向け人材紹介会社の草分けでもある上海創価諮詢に共同経営者として経営参加。現インテリジェンス中国(英創人材)総経理。日本生まれ日本育ちの華僑3世。
日本貿易振興機構(ジェトロ)主催及び他社との共催、また自社開催など多数のセミナーにおいて、「中国人事労務」「高級人材の獲得」「中国人事制度」「人事・採用戦略」などに関するセミナーの講師を担当。



このコラムについて

金鋭のなぜ日本企業は中国で勝てないのか

 中国人人材の採用、育成、そして労務管理。これらは中国に進出した日本企業にとって、避けることができず、そして、最も重要となる課題の1つである。ところが、ここでつまずき、壁に突き当たる企業が多いのもまた事実である。
 HR(企業の人的資源)に関わるようになって21年。そのうち15年を中国における日系企業の支援に費やしてきた筆者が、豊富なコンサルティング経験と実例に基づき、この課題の深層を分析し、解決策を綴る。

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