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懲罰的授業料を苦に、「天才」は自殺を選んだ

韓国式の人材育成に警告か!?

2011年1月26日(水)

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 韓国で最も優秀な理工系の人材が集まる国立大学KAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology)の1年生が「成績が良くない」ことを悲観して自殺した。「これは個人の問題ではない。大学や韓国社会が1人の天才を殺した」として社会問題になっている。

 KAISTと言えば、普通の韓国人にとって天才の中の天才が集まる大学というイメージがある。KAISTを舞台に大学生活の苦悩と青春を描いた人気ドラマもあったほど、手の届かないあこがれの大学である。そういえば、KAISTを舞台にしたドラマでも主人公の友達が自殺するという話があった。。。

 KAISTでは毎年のように成績に悩む学生が自殺している。韓国では成績と自殺はきっても切れない関係なのかもしれない。1989年には「幸せは成績順ではないじゃない」という映画が大ヒットしたほどだ。

 ところが今回の自殺は何かが違う。KAISTの学生たちが「これ以上自殺を増やさないでほしい」と立ち上がった。この自殺をきっかけに学生会を中心に「何が問題なのか」というタイトルで学校側と話し合いを行った。成績が良くなくて、自殺を選択するしかないほどに追い詰められた背景には、韓国式人材養成の限界、「科学技術人材を育てる」というKAIST自体の問題点、果てなく続く競争社会の問題点があるからだ。

実業高校出身初のKAIST入学!

 自殺した1年生の彼は実業高校(工業高校)出身であったが、「ロボット天才」として特別にKAISTに入学できた。小学生のころからロボットを制作する能力に優れていて、高校生になるとロボット世界大会で3位、韓国ロボット大会では大賞を獲得したからだ。KAISTには通常、これまた天才が集まると言われている科学高校の中でも成績上位の学生が入学する。一般高校から入学した学生だと、化学、物理、数学など基礎科目の講義についていけないほどレベルが高いと言われている。

 つい1年前、自殺した彼は「実業高校出身初のKAIST入学!」「ロボット天才がKAIST入学!」とテレビや新聞が大々的に報道していた。「韓国もついに高校の成績ではなく能力で人を評価するようになった」、「時代が変わった」と大騒ぎしていた。

年収の3割に達しかねない懲罰的授業料

 しかしKAISTで、彼が持つロボット制作の能力が生かされることはなかった。KAISTは世界的人材を育てることを目標にしており、ほとんどの講義を英語で行う。彼は英語で行われる数学の授業についていくのが大変で、単位を落とした。彼はよく周りの友達に「(特殊な入学ケースだから)がんばらないといけない」、「私が失敗したら実業高校出身者がKAISTに入学できなくなってしまう」、「英語の講義についていけない」、「勉強が大変」と漏らしていたという。

 KAISTは成績が落ちるとその分高い授業料を払わないといけない。「授業料差等徴収制度」(懲罰的授業料)と呼ばれる制度である。1学期の授業料は約200万ウォンで、他の大学の3分の1程度と安い。しかし、全科目の平均点が3.0以上(4.3満点で)取れなかった場合、0.01点につき6万3000ウォン(2010年基準)を追加で払わないといけない。2.0点以下の場合は最大600万ウォンを払わないといけない規定になっている。

 自殺した彼の場合は成績が2.0点以下だったため、基本授業料約200万ウォンに600万ウォンが追加された。これは1学期の授業料なので、この後も成績が伸びない場合、年間1600万ウォン近い授業料を払うことになる。これは韓国の大学の中でもっとも高い授業料となる。

 韓国統計庁のデータを見ると、都市勤労者の2010年の月平均所得は4人家族で422万9126ウォンである。1人の子供の年間授業料が1600万ウォンとは、払いきれないほど大きな負担になる。

 彼が自殺したのも、授業料請求の通知が届いた直後だったという。マスコミのスポットライトを浴びて、周囲の期待を背負ってKAISTにやってきただけに、懲罰的授業料がどれだけストレスになっていただろうか。

 学校側は、KAIST学生の平均成績は3.0以上、懲罰的授業料の対象になる学生はそれほど多くないという。だが、学生たちの反応は違っていた。Twitterやネットの掲示板には、こんなコメントが並ぶ。

「成績評価の方式そのものに問題がある。公正な評価になってない」
「興味がある講義はいくつもあるけど成績が落ちるのが怖いので、良い成績がもらえそうな科目しか取らなくなった」
「成績重視だから友達付き合いもなくなった。期待していた大学生活とは全然違う」
「私の周りには奨学金をもらう人より懲罰的授業料を払う人の方が多いのはどうして?」
「懲罰的授業料が高すぎて払えず学校を辞めた学生も多い」
「特殊な分野に才能があり潜在能力を見て入学を許可したからには、学校側はそれに合ったケアをしてあげるべきだった」
 不満が爆発している。

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「懲罰的授業料を苦に、「天才」は自殺を選んだ」の著者

趙 章恩

趙 章恩(ちょう・ちゃんうん)

ITジャーナリスト

研究者、ジャーナリスト。小学校~高校まで東京で育つ。ソウルの梨花女子大学卒業。東京大学学際情報学府博士課程に在学。日経新聞「ネット時評」、日経パソコン「Korea on the web」などを連載。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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