このコラムでは、常に韓国企業を学ぶか否か、または学ぶべき点と学べない点とは何かということを考えている。これまでは、日本企業が、韓国企業から学ぶと言っても、まだ斜め上からの目線や一歩距離を置いた位置のものであって、決して素直な気持ちではなかったり腹を括ったものではなかったりするケースをよく見聞きした。
しかし、最近になって、日本企業と韓国企業が、一歩踏み込んでお互いフラットに学び合おうという動きが出ている。そしてこの流れが後押ししてか、日韓企業連携も深化し始めている。
サムスン会長はいまだに「日本に学ぶ」というが…
サムスングループの李健煕(イ・ゴンヒ)会長は、2010年4月の日本財界人との夕食会で「サムスンはこの数年間よくなっているが、まだ日本企業から学ぶべきことがある」と話している。2011年1月には日本出張(訪問先は日本経団連や協力会社)の前に金浦空港で「外見ではサムスンがリードしているように見えるかもしれないが、中身(部品)で日本に追いつくためには、まだ多くの時間と研究が必要だ。学ぶべきことは多い」と述べた。
李会長は、これまでも度々「日本を学ぶ」と発言しており、この姿勢は一貫している。しかし、「日本を学ぶ」という発言の真意はどうだろうか。真意は、本人にしか分からないことであるが、一時は日本企業を追いつけ追い越せと無我夢中で学び、またある時は冷静かつ謙虚に学んだと推測される。
ただここにきて、サムスンが世界や業界で置かれている立場は以前とはかけ離れている。そこで、李会長の真意がこれまでと同様であるとは、考えにくい。例えば、学ぶ点を部品に絞っていると見られる。もう製品や企業経営の面で学ぶことがなくなったのだろうか。
もしくは、ソニーなど日本企業が、サムスンとの提携や協力を避ける事例が増えていることから、脅威感を和らげるために使った表現という見方もできる。ソニーは、2004年にサムスン電子と合弁会社S−LCD社(忠清南道・牙山、出資比率ソニー49%:サムスン51%)を設立して以来、緊密な協業を維持してきた。サムスン電子の売上高のうち約4%がソニーへの販売によるものだ。しかしソニーは、今年に入りサムスン電子以外にLGディスプレーとも手を握り、液晶LCDパネルを調達することにしている。
一方、日本企業が「韓国に学ぶ」というのもより具体化している。韓国トヨタの中林尚夫社長は、2011年2月にソウルでの記者懇談会で、韓国市場では苦戦しているとしながらも、「ライバル会社の現代自動車と韓国市場について謙虚に学ぶ姿勢が必要だ」と述べたと韓国メディアが報じている。具体的には、「現代車を含む韓国企業が熱心に仕事をする点」「意思決定の早さと強力なリーダーシップを持っている点」「リーダーシップを確実に補佐する支援グループがある点」の3点を挙げている。
トヨタ自動車の本社は、この韓国企業のスピード感を意識したかどうかは分からないが、経営のスピードを速めるため現在27人の取締役を10〜15人に減らすと発表した。狙いは、意思決定の迅速化や権限委譲を積極的に進め、国際競争力を高めるとのことだ。
こうした動きは産業界だけではない。日本弁護士連合会までも「韓国に学べ」と主張し始めている。2010年12月に日弁連が開催した第11回国選弁護シンポジウムに集まった弁護士たちは、韓国視察の感想として「私たちは韓国に学ぶところもたくさんあるのではないか」「韓国は、日本よりも全体的にかなり進んでいる印象でした」と述べたと日本経済新聞が報じている。
また、同シンポジウムの500頁にも及ぶ基調報告書は、70頁余りを韓国視察した弁護士団のリポートに割いたのに加え、「被疑者弁護に関わる刑事訴訟法等の改正の試案(35頁)」もその多くの部分で韓国刑訴法を参考にしたそうだ。韓国は、日本とほぼ同じ法制度から出発したのであるが、国際基準を強く意識し、制度改革と法改正を重ねた結果、日本と随分違う刑事司法をつくりあげた。その随分違う部分を学ぶべきだということだ。
| 日本 | 起訴された人の80%が勾留で身柄拘束中。(起訴後の保釈も少なく、67%の被告人が勾留のまま一審判決を受けた) 日本には、逮捕・勾留の適否審査や起訴前の保釈制度はない。適否審査に似た「勾留の取り消し請求」の規定はあるもののほとんど機能していないという。その結果、長く続く身柄拘束は、人質司法と批判され、調書偏重の裁判と並んで日本の刑事司法の課題とされる。 |
| 韓国 | 被疑者・被告人の身柄拘束率は、14%。 多段階拘束審査制度と呼ばれる刑訴法の規定とそれを厳格に運用する裁判所の判断の結果である。多段階拘束審査制度とは、1段階:逮捕状の請求時、2段階:容疑者側が逮捕の適否審査を請求した時、3段階:勾留状の請求時、4段階:勾留の適否審査の請求(事実上、起訴前の保釈請求)時、5段階:起訴後の保釈申請、勾留取り消し申請時。各段階毎に裁判所が、身柄拘束の可否を決める。 日本の刑訴法にない条項で特徴的な点は、(1)捜査段階の調書を証拠として採用できる条件を明確化(2)取り調べに弁護士が立ち会う手続きや取り調べ可視化の方式を規定(3)容疑者調べは身柄を拘束せずに行う原則を明文化――いずれも容疑者・被告人の権利を守り、無理な取り調べをさせないためのものとなっている。 |
| 国際基準 | 国連の自由権規約が示す「裁判に付される者を抑留することが原則であってはならない」 (韓国の制度は、これを実現している) |
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多摩大学 経営情報学部 教授

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