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闇に葬られ続ける「イタイイタイ病」

年間2000万トン、カドミウム汚染米比率は1割に達する

2011年2月25日(金)

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 日本の高度成長期であった1950年代後半から1970年代にかけて発生した公害によって発症した病気を公害病と言うが、そのうちで被害が特に甚大なものを総称して「4大公害病」と呼ぶ。その内訳は、有機水銀による水質汚染を原因とする「水俣病<熊本県>」と「新潟水俣病(第2水俣病)<新潟県>」、亜硫酸ガスによる大気汚染を原因とする「四日市ぜんそく<三重県>」、カドミウムによる水質汚染を原因とする「イタイイタイ病<富山県>」である。ちなみに、日本の厚生省によって最初に認定された公害病は「イタイイタイ病」であり、それは1968年5月のことであった。

日本の「4大公害病」を遥かにしのぐ

 驚異的な高度成長により2010年にGDPで日本を抜いて世界第2位の経済大国となった中国にも「公害病」は当然ながら存在する。中国各地から報じられる環境汚染や公害から判断して、「公害病」の状況は、日本の「4大公害病」を遥かにしのぐほどに深刻と考えられるが、中国政府は依然として「公害病」の存在を公式に認めていないのが実情である。

 2011年2月14日発行の週刊誌『新世紀週刊』は、“宮靖”記者による“鎘米殺機(カドミウム米の殺意)”という特集記事を掲載した。2007年頃、南京農業大学農業資源・環境研究所の潘根興教授が中国の6地区(華東、東北、華中、西南、華南、華北)の県レベルの「市」以上の市場で販売されていたコメのサンプルを無作為に170個以上購入して科学的に分析した結果、その10%のコメに基準値を超えたカドミウムが含まれていたという。これは2002年に中国政府農業部の「コメおよびコメ製品品質監督検査試験センター」が、全国の市場で販売されているコメについてその安全性を抜き取り検査した結果の「カドミウムの基準値超過率」10.3%と基本的に一致したのである。

 カドミウムを起因とする「イタイイタイ病」は、1955年に神通川下流域の富山県婦中町(現・富山市婦中町)で1910年から1970年にかけて多発した病気で、患者が「痛い、痛い」と泣き叫んだことから命名されたものである。この原因は、神通川上流の岐阜県飛騨市にある三井金属鉱業神岡鉱山亜鉛精錬所から排出された廃水に含まれていたカドミウムが下流の富山県婦中町周辺の土壌を汚染したことにある。

 汚染された土壌で栽培されたコメや野菜、地下水には基準値を超えたカドミウムが含まれ、そのコメや野菜を食べ、井戸水を飲んだ住民たちが体内にカドミウムを蓄積した結果、骨軟化症、腎機能の低下、筋力低下などを発症した。最終的には骨の激痛に苦しみ、容易に骨折するようになり、寝たきりとなったのである。

鉛含有は28.4%、カドミウムは10.3%

 上述の2002年に行われた中国農業部による市販米の抜き取り調査によれば、コメに含まれていた重金属で基準値超過が最も多かったのは鉛で28.4%を占め、これに次ぐのがカドミウムの10.3%であった。一方、2007年頃に行われた潘根興の調査では、コメの重金属汚染の主体は“長江”以南で生産される“籼米(せんまい)”<注1>であり、とりわけ湖南省、江西省などでは深刻な状況にあることが判明した。

<注1>“籼米”とは炊いても粘り気がない「インディカ米」を指し、中国では“長江(揚子江)”から南で生産される。これに対して“粳米(こうまい)”と呼ばれる、炊くと粘り気がでる「ジャポニカ米」は黄河と長江の中間を流れる“淮河(わいが)”以北で生産される。“淮河”と“長江”の中間地帯では両者が混在して生産されている。

 また、2008年4月に潘根興が研究チームを引き連れて、江西省、湖南省、広東省などの“農貿市場(農民が生産した農産物を販売する自由市場)”で無作為に買い入れたコメのサンプル63個を分析した結果、何とその60%以上に基準値を超えるカドミウムが含まれていた。これは中国南部地方の酸性土壌で“超級雑交稲(スーパー・ハイブリッド稲)”<注2>を栽培すると通常の稲に比べてカドミウムの吸収量が高まることが一因であるが、土壌のカドミウム汚染がその根本的な原因と考えられる。

<注2>中国で「ハイブリッド水稲の父」と呼ばれて尊敬を集める水稲研究家の袁隆平が開発した品種で、同氏が開発してコメの高収穫量を実現した「ハイブリッド水稲」を改良して収穫量を飛躍的に増大させたもの。

 中国のコメの年産量は約2億トンであるが、上述のごとく、基準値を超えるカドミウムを含むコメが10%あるとすれば、その量は2000万トンとなる。日本の2007年におけるコメの生産量は882万トンであるから、中国の「カドミウム汚染米」は日本のコメの年産量の約2.3倍もの膨大な量である。

 これらの汚染米を生産している農民たちは、生産したコメがカドミウムに汚染されているなどとはつゆ知らずで、自家消費分を除いたコメを食糧センターやコメ専門企業に売り渡す。こうしてカドミウム汚染米は市場に流通し、何も知らない消費者は疑うことなくカドミウム汚染米を購入し、安全と信じて食べることになるのである。消費者が購入するコメは毎回同一地域で生産されたものとは限らないから、カドミウム汚染米を常食する危険性は少ないと思われる。ところが、カドミウム汚染米を生産する農民は自家製米を常食するので、カドミウムが体内に蓄積される危険性は極めて高い。

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「闇に葬られ続ける「イタイイタイ病」」の著者

北村 豊

北村 豊(きたむら・ゆたか)

中国鑑測家

住友商事入社後アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、住友商事総合研究所で中国専任シニアアナリストとして活躍。2012年に住友商事を退職後、2013年からフリーランサーの中国研究者として中国鑑測家を名乗る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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