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「春節前の賃金支払い」の信義

出稼ぎ農民への約束、兄の死を乗り越えて弟が守った【通算200回】

2011年3月4日(金)

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 中国では毎年“春節(旧正月)”が近づくと、故郷を離れて外地に居住する人々が大挙して里帰りし、故郷の実家で“団圓(一家団欒)”の時を過ごす。外地に働きに行っている“農民工(出稼ぎ農民)”たちは、1年間働いた賃金を懐に故郷へ戻り、家族や親戚に土産を渡し、両親や子供たちに“紅包(お年玉)”を配り、彼らの喜ぶ顔を見ることで生き甲斐を実感するのである。

 ところが、農民工が労働力を支えている建設業を主体として、いざ故郷に帰ろうと農民工が賃金の支払いを要求すると、言を左右にして賃金の支払いを渋ったり、満額を支払わなかったり、果ては賃金を払わぬまま姿をくらますといった悪質な経営者が多く、大きな社会問題となっているのである。

賃金不払いで春節に故郷へ帰れない

 2011年の春節(2月3日)を間近に控えた1月28日、中国政府の人力資源保障部、国家発展改革委員会、監察部、財政部、住宅都市農村建設部の5部門は連名で、農民工への賃金不払い問題の解決を命じる通達を公布した。この内容は、各地方政府に賃金不払いの実態を調査して不払いの解消に努力し、元請け業者と下請け業者の契約内容の確認および元請け業者の賃金支払い義務の明確化、賃金不払い企業名の公表並びに入札資格剥奪などを含む5項目で構成されていた。

 中国政府にとって農民工への賃金不払い問題は長年にわたる懸案事項であり、毎年春節が迫る時期になると関係部門名で恒例のように賃金不払いの是正を求める通達を出している。すなわち、2008年12月31日付で人力資源保障部ほか13部門の連名で「企業による農民工の賃金不払い問題の解決を要求する通知」を、また2010年には2月5日付で国務院弁公室が「企業による農民工の賃金不払い問題を確実に解決することに関する緊急通知」をそれぞれ公布している。しかし、問題は一向に解決されず、非常に多数の農民工が悪質な経営者による賃金不払いで春節に故郷へ帰れないのが実情である。

 こうした経営者による賃金不払いに遭った農民工が対抗する手段は以下の通りである:

【1】経営者と協議して未払い分を支払ってもらう
【2】協議で解決できなければ、労働争議仲裁委員会に仲裁を申請する
【3】経営者が発行した不払い賃金の借用書があれば、労働争議仲裁を経ずに裁判所へ直接に訴訟を提起することができる

 しかし、総じて学歴の低い農民工にとって仲裁の申請や訴訟の提起は難事(なんじ)であり、手間と時間がかかるばかりでなく、問題を提起しても関係官庁をたらいまわしされた挙句、泣き寝入りを余儀なくされることが多い。一方、賃金の不払いを犯罪として罰する法律はなく、賃金不払いを行っても、悪質な経営者は何の刑罰も受けることなく大手を振ってのさばっていることができる。従い、彼らの多くは賃金不払いの常習犯である。こうした事態を憂慮し、農民工の不満を解消することの必要性を認識した中国政府は、数年前から賃金不払いを刑事罰の対象とするべく刑法の改正に取り組んでいたのである。

2010年中国を感動させた人物授賞式典で

 2011年2月25日付の全国紙『法制日報』は、国営通信社「新華社」のニュースを引用して、全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会が、労働者への賃金不払いを新たに犯罪と規定する「刑法改正案(八)」の第3回審議を行っており、近日中に可決する見通しであると報じた。これは、悪質な経営者が財産を移転したり、隠匿する方法で労働報酬の支払いを逃れたり、労働報酬を支払う能力があるのに比較的大きな金額を支払わなかったり、政府関係部門の支払い命令にもかかわらず支払わないなどの行為を犯罪と認定し、労働者の合法的権利を擁護しようというものである。刑法改正案(八)の第3回審議原稿によれば、その刑罰は3年以下の懲役あるいは拘留並びに罰金、罪状が重い者に対しては、3年以上7年以下の懲役並びに罰金となっている。

 ところで、“中国中央電視台(中国中央テレビ局)”は2011年2月14日の夜8時から毎年恒例の名物番組“2010感動中国人物評選頒奨典礼(2010年中国を感動させた人物授賞式典)”を放映した。今年で通算9回目を迎えた同番組は、番組の審査委員会ならびに視聴者の推薦で選出された「年間を通じて中国を感動させた人物」候補の中から審査員の評点ならびに視聴者の投票結果を踏まえて選出された「前年に中国を感動させた人物」(個人または複数人)を表彰する番組である。今年の受賞者は、2010年7月30日に97歳で死去した上海大学長の“銭偉長”<注1>を筆頭とする12人(個人8人+2人組×2組)であった。

<注1>弾性力学の専門家でロケット工学の権威。中国の核兵器やミサイル開発に大きな貢献を果たした。

 その受賞者の中に、賞の授与に際して審査委員から、「言葉は忠実、行いは謹直(=きまじめ)、古来から伝わる信条に基づいて、今どき殊勝な行為を実践した」という栄誉ある言葉を贈られた兄弟がいる。その兄弟とは、兄の“孫水林”と弟の“孫東林”である。では、「今どき殊勝な行為」とは何だったのか。授賞式典では会場のスクリーンに彼らについて報じたテレビニュースを編集した映像が上映され、会場に詰めかけた式典参加者の涙を誘った。その映像に沿って彼らの殊勝な行為とは何だったのか見てみよう。

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「「春節前の賃金支払い」の信義」の著者

北村 豊

北村 豊(きたむら・ゆたか)

中国鑑測家

住友商事入社後アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、住友商事総合研究所で中国専任シニアアナリストとして活躍。2012年に住友商事を退職後、2013年からフリーランサーの中国研究者として中国鑑測家を名乗る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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高坂 晶子 日本総合研究所調査部主任研究員