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 韓国では、大学に入学するまで、小中高と塾に通い、加えて高校では学校での補充授業に自律学習と勉強漬けの日々を送ることを前回前々回のこのコラムで見てきました。

 韓国の学生も、大学に入れば一息つけます。大学生の平均学業時間は4時間3分と、高校生の9時間10分の半分以下、小学生の6時間13分よりも短くなっています。しかしゆとりある生活は長くは続かず、大学生活も後半にさしかかると就職の準備を始めなければなりません。

 大学生の就職は年々厳しくなっていますが、理由として、大学卒業の価値が年々下落していることと、大学卒業生が希望する就職先の採用人数が減少していることが挙げられます。

下落する大卒者の価値

 大学進学率は1990年代初頭の30%前後から2000年には80%を超えるなど急激に高まりましたが、これとともに大学の卒業生数が急増しています。四年制大学について見ると、1980年には5万人でしたが、1995年には18万8000人、2010年には28万人と30年間で6倍ほどに増加しています(※1)。また専門大学でも1980年1万7000人、1995年14万4000人、2010年19万人とやはり増加しています。そして結果として、同じ年代で大学卒業生が占める割合が高まりました。

 日本の「国勢調査」に相当する「人口総調査」によると、2005年において50〜54歳(1951〜55年生まれ)で大学を卒業した人の比率は17.8%に過ぎませんでしたが、25〜29歳(1976〜80年生まれ)では57.4%にまで高まっています。大卒が5人に1人しかいない年代より、2人に1人以上もいる年代の方が、大卒の価値が落ちることは明らかです(図1)。

人気企業は新卒採用人数を減らし競争激化

 一方で大卒が希望する就職先が増えれば問題ありませんが逆に減少しています。大卒が目指す就職先とは大企業です(※2)。しかし財閥企業、公企業、金融関連企業など大学生が希望する企業(以下「人気企業」とします)は通貨危機を契機にリストラを進めており、従業員数は1997年の157万人から2002年には125万人と32万人減少しています(※3)

 人気企業が行ったリストラの方法としては、名誉退職(=勧奨退職)などにより中高年を切るよりも、新卒採用を絞る方法が一般的でした。このため、人気企業におけるリストラは新卒採用数に色濃く反映され、これら企業への就職が狭き門になったと考えられます。また新規採用者に占める経験者、つまり他社からの転職組の割合が増えていることが、新卒採用の門をさらに狭くしています。

 1996年には新規採用者に占める経験者の割合は34.8%に過ぎませんでしたが、2002年には81.8%になっています(※4)。このように大学新卒者は年々増える一方で、人気企業の新卒採用人数は減っているため、競争も熾烈になっています。

 また人気企業に入るどころか、大卒でも非正規職として就職する人が多い状態にもなっています。「経済活動人口調査青年層付加調査」の個票データを利用して(以下で出所を示さない数字は同様です)四年制大学の卒業者の就職先の雇用形態を見ると、非正規職としての就職率が3割を超えており、特にリーマンショック以降の2009年以降の卒業生は4割以上が非正規職(※5)として就職しています(図2)。なお男性に限っても2010年の卒業生の非正規としての就職率は33.0%と3割を超える水準です。

 さらに韓国では過剰教育が問題になっています。経済学には、教育を受ければそれだけ人的資本が蓄積され、国の潜在成長率が高まるとの考え方があります。しかしこれには教育水準に見合った職が存在することが前提となります。

 過剰教育とは、高校卒業程度の教育水準で足りる職業に大卒が就くなど、職務遂行に必要とされる教育水準より働いている人が高学歴であることで、せっかくの人的資本を無駄にすることを意味します。過剰教育については、四年制大学卒業生の49.5%、専門大学卒業生の37.8%が、身に付けた教育水準を必要としない職業に就いているとの研究があります(※6)

※1 1980年及び1995年の数字は、チェチャンギュン他(2005)『青年層の労働市場移行と人的資源開発[1]』韓国職業能力開発院、12〜13ページを参照した。2010年の数字は教育科学技術部の資料を参照した。
※2 チェチャンギュン他(2005)の20ページでは、『大卒者が主に就職したいと思う30大企業集団(=財閥企業)、公企業、金融関連企業』と書かれている。また韓国労働研究院のイビョンヒ博士も、「就職時における大企業志向には変化がない」との意見であった。
※3 チェチャンギュン他(2005)20ページ。
※4 チェチャンギュン他(2005)19ページ。
※5 ここでの非正規職の定義は、政府の公式統計である「経済活動人口調査勤労形態別付加調査」の定義とは若干異なる。すなわち、(1)有期契約雇用者、(2)無期契約雇用者であるが継続的な勤務が期待できない雇用者、(3)パートを非正規職としている。政府の定義との違いは、派遣や請負など非典型雇用者を非正規職から除外する可能性がある点、自己都合で継続勤務できない無期契約雇用者を非正規職に含めてしまう点などである。
※6 キムスソプ(2005)「青年層の高学歴化による学歴過剰の実態分析」『労働政策研究』第5巻第2号 韓国労働研究院,pp.1〜29。

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