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厳しい財政規律、少ない借金

財政の健全性が維持できる理由(1)

2011年5月9日(月)

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 韓国の財政を見ると健全の一言に尽きます。まず国家債務について見てみましょう。国家債務は2009年に360兆ウォンであり、GDP比では33.8%です(図1)。国家債務の対GDP比は1990年代前半には10%を切っていたことを考えると、最近は増加傾向にあることは否めませんが、いまだにOECD諸国の中でも3番目に低い水準です。

 さらに韓国の国家債務を見る際には、債務の54%(※1)に相当する額が、融資資金などの対応資産がある金融性債務であることを忘れてはなりません。金融性債務としては大きく2つが挙げられます。一つは外国為替市場の安定のための債務(主に外貨平準債)、もう一つは低所得者の住居安定のための債務(主に国民住宅債)です。

国家債務の半分以上に確実に回収できる資金が連動

 外貨平準債は、為替介入に必要な資金を調達する目的で発行され、ウォン高を是正する(ウォン安を誘導する)ための介入の際にはウォン建ての債券を発行し、逆の場合はドル建ての債券を発行します。なお大半はウォン建ての債券が発行されてきましたが、1998年と2003年にはドル建ての債券も発行されました。ウォン建ての債券を発行した場合、調達資金でドルを購入しますが、これは外貨準備の政府所有分となります。よって債券に相当する額のドル資金があるわけです。

 また国民住宅債は国民住宅基金の財源調達のため発行されています。国民住宅基金は、主に住宅供給者と住宅需要者に対する貸付を行っており、供給者に対しては、一定規模以下の低所得者向け賃貸住宅を建設する者に資金を低利で貸し出しています。また需要者に対しては、低所得無住宅者が一定規模以下の住宅を購入する場合に、住宅取得価格の70%以内を低利で貸し出すなどしています。よって国民住宅債の裏には、低所得者向けの賃貸住宅を供給した者、住宅を購入した低所得者などに対する債権があります。

 日本の国家債務は大きいですが、道路など国家が有する資産も多いので相殺されるとの議論があります。しかし韓国の金融性債務は全く次元の違う話です。日本の議論は換金できない資産を金銭的に評価しているに過ぎないなどフィクションの域を出ませんが、韓国の場合、半分以上の国家債務には、外貨や一定期間過ぎれば返還される債権など、確実に返済資金となるものが連動しています(※2)

 この観点から見れば、韓国の実質的な国家債務はGDPの16%程度です。さらに実質的な国家債務のうち30%ほどは、1998年以降の金融構造改革において、金融機関に150兆ウォンを超える額が投入された公的資金の中で、回収が不可能となり国債に転換された部分です。よって残りが一般会計の赤字補填のため発生した債務です。

通貨危機は財政破綻ではない

 国家債務も収束する方向にあります。国家債務が収束するためには、(1)プライマリーバランスが黒字、(2)名目成長率が名目金利を上回るとのドーマーの条件を満たすことが必要です。このうち、プライマリーバランスは、2010年で対GDP比1.0%の黒字です(※3)

 また韓国の一般的な長期金利指標である3年物国債の金利は、2010年で3.7%であり、同年の名目成長率は10.1%ですから、名目成長率の方が上回っています。なおリーマン・ショック後の景気後退により成長率が落ちた2009年には、長期金利の水準が名目金利を上回りましたが、これは一時的であり、傾向としては名目金利の方が長期金利より高い状態です。このように韓国ではドーマーの条件が満たされており、国家債務が発散する危険はありません。

 なお1997年に韓国は通貨危機に襲われましたが、これが財政破綻と混同される場合があります。韓国は1997年に財政破綻を起こし、その結果、金利が急上昇して国民生活に甚大な影響を与えた旨の報道もありました。しかし通貨危機と財政破綻は全くの別物です。韓国は1997年末に外貨準備が底をつき、金融機関を中心にドル建てで借りていた短期借入金の返済ができなくなったことから、国際通貨基金(IMF)から緊急融資を受けました。この通貨危機の根本的な原因は、企業部門の積極的すぎる設備投資とそれにともなう経常赤字の累積にあります。通貨危機以前も韓国の財政は極めて健全であり、通貨危機の原因にはなり得ない状況であったことを、ここでは強調しておきたいと思います。

均衡財政にこだわる政府

 さて韓国の財政が健全な理由としては、政府が均衡財政にこだわり、実際にこれを実現してきたことを挙げることができます。韓国では統合財政収支、すなわち、一般会計、特別会計、基金の収支を合計し、会計間の内部取引を除外した収支を財政運営上の目標としてきました。現在、統合財政収支は黒字基調で推移していますが、昔はそうではありませんでした。

 1970年代から1980年代初頭までは、政府は経済成長を優先し、財政には注意を払わなかったので持続的に赤字の状態でした。しかし1980年代初頭からは物価上昇を抑制して経常収支赤字を解消するために、安定的な財政運営がなされるようになり、それ以降は統合財政収支が均衡しつつ推移しました(図2)(※4)

 1980年代初頭に財政運営の基調が変化した背景について、元財政部長官のサコンイル博士は、当時はインフレ、国際収支の悪化、外債負担といった経済における難題を抱えており、節制された財政政策基調を維持することは安定化のための最も重要な前提条件であったとしています。

 また、純粋なマクロ経済的次元からだけでなく、安定化政策を極大化するためには国民の協調が必要であり、そのためには政府が率先垂範して財政赤字を縮小させ、政府の政策に対する信頼性を確立することが必要であったからという点も挙げています(※5)。このような理由から、政府は均衡財政のルールに従うようになったと考えられます。

※1 企画財政部「09~13国家財政運用計画(暫定案)」2009年9月3日報道資料による予測値。
※2 ただし為替評価損、貸し倒れの発生があり得るので、厳密には確実とは言えない。
※3 OECD (2010) “Economic Outlook No.88”による。
※4 大韓民国政府(2004)『2004~2008年国家財政運用計画』7ページ。
※5 司空壹(1994)『韓国経済新時代の構図』(渡辺利夫監訳、宇山博訳)東洋経済新報社, 70-75ページ。

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「厳しい財政規律、少ない借金」の著者

高安 雄一

高安 雄一(たかやす・ゆういち)

大東文化大学経済学部教授

1990年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、調査局、外務省、国民生活局、筑波大学システム情報工学研究科准教授などを経て現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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