「オバマと戦争」

奇怪なビンラディン掃討作戦、「ジェロニモ」で崩壊に向かう米国の戦略

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2011年5月9日(月)

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 5月1日、バラク・オバマ米大統領がホワイトハウスで緊急声明を発表し、国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディンを殺害したことを明らかにした。米軍の特殊部隊のチームを主権国家であるパキスタンの首都イスラマバードの近郊に送り込み、ビンラディン及びその側近たち数名を殺害したというのである。

 謀略渦巻く国際政治の世界をウォッチしている者にとっても、これほど奇怪な事件に出会うのは珍しい。ビンラディン殺害作戦の細部や同氏の隠れ家を発見するに至ったインテリジェンスなど、この事件の詳細についてはいまだ不明な部分が多く、米政府の公式発表も後に訂正されているため、現時点で明らかになっている情報のみを鵜呑みにするのには十分注意が必要である。

 そうした不確定要素を考慮しながらも、今回の事件が米国の対テロ戦争に与えるインパクト、もっと端的に言えば、「これは米国のテロとの戦いの勝利を意味しているのか」、それとも「新たな混沌の時代への突入を意味しているのか」、に焦点を絞って分析してみよう。

「単独作戦」を強調したオバマ演説

 まずは世界を驚愕させたオバマ大統領の声明を見ていこう。

 「今晩、私は米国民と世界に対し、米国が軍事作戦を実施し、アルカイダの指導者であり数千人の無実の男性、女性そして子供たちの殺害に責任のあるテロリスト、オサマ・ビンラディンを殺害したことを報告する」

 劇的なリードで始まるスピーチは、ビンラディンが911米同時多発テロの首謀者であり、米当局の必死の追跡にもかかわらず約10年にわたって逃走を続け、その間にも危険な国際テロ組織アルカイダが世界中でテロを企ててきた経緯について触れ、自身が大統領になって以来、ビンラディンの殺害もしくは逮捕を対テロ戦争の最優先課題に位置付けてきたことを説明した。

 そして昨年8月以来、ビンラディンの隠れ家に関する情報収集・分析を注意深く実施した結果、「行動を起こすのに十分なインテリジェンスが集まったと判断し、オサマ・ビンラディンを捕まえ、彼に裁きを受けさせるための作戦を許可した」と述べた。

 「この数年間、私は、もしビンラディンがいることがわかったならば、それがパキスタン国内であろうとも行動するということを何度も繰り返し明言してきた。われわれはその言葉通りに実行したまでだ。しかし、留意しておきたい重要なことは、我々のパキスタンとの対テロ協力が、我々をビンラディンと彼の隠れ家へ導くことにつながったという点だ。実際、ビンラディンはパキスタンに対しても宣戦布告しており、パキスタン国民に対する攻撃も命じていたからである」

 このオバマ演説の中で、この部分がもっとも興味深く、また示唆に富んでいる。同大統領はこう述べることで、今回の作戦が米国による単独行動であり、パキスタンに対して事前に相談しなかったことを明らかにすると同時に、一方では、“これまでの長期にわたる両国間の諜報協力が間接的に今回の作戦に貢献した”として、パキスタンに対して一定の配慮を見せたのである。

 さらにオバマ大統領は、「これから前進するにあたり、パキスタンがアルカイダやその関連組織に対する戦いにおいて、我々と共に歩み続けることが重要である」と続けて述べている。

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著者プロフィール

菅原 出(すがわら・いずる)

菅原 出

1969年、東京生まれ。中央大学法学部政治学科卒。平成6年よりオランダ留学。同9年アムステルダム大学政治社会学部国際関係学科卒。国際関係学修士。在蘭日系企業勤務、フリーのジャーナリスト、東京財団リサーチフェロー、英危機管理会社役員などを経て、現在は国際政治アナリスト。会員制ニュースレター『ドキュメント・レポート』を毎週発行。著書に『外注される戦争』(草思社)、『戦争詐欺師』(講談社)、『ウィキリークスの衝撃』(日経BP社)などがある。



このコラムについて

オバマと戦争

2009年12月1日、オバマ大統領は3万人の増派を中心とする新しいアフガン戦略を発表した。アフガンは米国にとって「第二のベトナム」になってしまうのか? それともオバマ政権の新しい思考とアプローチは、アフガンの地に安定を取り戻すことが出来るのか? 一方、いまだ治安の安定しないイラクから、米国は無事に撤退をすることが出来るのか? また、大統領選挙の混乱以降、政治不安の続くお隣イランの核開発問題は、これからどのような方向に進んでいくのか? そして、こうした中東の混乱に乗じて北朝鮮はどのような動きを見せるのだろうか? バラク・オバマが政治生命を賭けて取り組むアフガン戦争と、米国の安全保障を左右するイラク、イラン、北朝鮮をテーマに、「オバマの戦争」を追いかけていく。

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