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脱原子力政策を加速させるドイツ

「全廃」へと挙国一致でまっしぐら

2011年5月20日(金)

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 菅首相の要請を受けて、中部電力が浜岡原子力発電所を停止した。このニュースは私が住んでいるドイツでも大きく取り上げられている。これまでドイツ市民の間では、「日本では福島第1原子力発電所で大事故があったにもかかわらず、なぜ激しい原発反対運動が起こらず、原発停止などの措置が取られないのだろう」と不思議に思う市民が多かったからである。

 日本の原発事故をきっかけとして、エネルギー政策を根本的に改革する決断をした世界で唯一の国、それはドイツだ。日本も含めて多くの国々が、原子力の存続についての本格的な議論をまだ始めていない中、ドイツだけは原子力エネルギー全廃への道を、猛スピードで突進している。

原子力モラトリアム・発令

 3月11日に東日本大震災と福島第1原発の事故の第一報を聞いたメルケル首相は、4日後に「原子力モラトリアム(猶予期間)」を発令。このモラトリアム(猶予期間)は3カ月続く。この期間中には、1980年末までに運転を開始した、ドイツで最も古い7基の原子炉を停止させられ、原子炉安全委員会がこれらの原子炉を含む17基の原子炉について安全検査を行なっている。停止させられた原子炉は表1の通りである。

表1 震災後の原子力モラトリアムにより一時的に停止させられた原子炉

原子炉 運転開始 シュレーダー政権が
決めた停止年
第2次メルケル内閣が
決めた停止年(震災前)
ビブリスA号機 1975年 2011年 2018年
ビブリスB号機 1977年 2012年 2018年
イザー1号機 1979年 2011年 2018年
ブルンスビュッテル 1977年 2011年 2019年
ネッカーヴェストハイム1号機 1976年 2011年 2020年
フィリップスブルク1号機 1980年 2012年 2020年
ウンターヴェーザー 1979年 2012年 2020年

 この他に2007年以来変圧器の火災などのトラブルを繰り返したクリュンメル原発が、2009年から停止したままになっている。つまり合わせて8基の原発が止まっているのだ。

 さらにメルケル政権はこのモラトリアムの期間中に、わずか3カ月前に施行したばかりの、原子炉の稼動年数の延長措置も凍結した。ドイツ政府は2010年12月に原子力法を改正して、原子炉の稼動年数を平均12年間延長していた。

 ドイツでは1998年に社会民主党(SPD)と緑の党による初めての左派連立政権が誕生。シュレーダー政権は、原子炉の稼動年数を32年間に限る「脱原子力政策」を主要工業国として初めて実行した。全ての原子炉は2022年もしくは2023年に停止するはずだった。

 だが2009年10月に発足した、保守中道連立政権(第2次メルケル内閣)は、原子力全廃に批判的な産業界と、電力業界の意見を受け入れて、シュレーダー政権の脱原子力政策を部分的に見直し、稼動年数を平均12年延ばしたのだ。この措置によって最後の原子炉のスイッチが切られるのは2035年頃となった。

 だが今年3月11日以降、メルケル首相は、「福島の事故は世界全体にとって、痛打だ」と述べ、原子力擁護の立場を改め批判派に「転向」したことを明らかにした。

 なぜ福島の事故は、理論物理学者だったメルケル氏にとって「痛打」なのか。

欧州でも大災害が起こりえると理解した政府

 もともとドイツ人は、日本に対して「ハイテクノロジー国家」というイメージを持っていた。東日本大震災が起こるまで、レベル7に達した原発事故は、1986年のチェルノブイリ事故だけだった。メルケル首相を含めたドイツ政府関係者は、「チェルノブイリ事故のような深刻な事故が起きたのは、西欧や米国では使われていない黒鉛炉が使われていたことや、作業員の教育が徹底していなかったため」として、社会主義圏に特有の事故だと考えていた。つまり彼らは、西側ではチェルノブイリほど深刻な事故は起こり得ないと考えていたのだ。

 しかし福島第1原発の事故は、その「常識」を覆した。ドイツ政府は「社会主義圏だからレベル7の事故が起きた」という言い訳は使えなくなった。彼らは「外部電源が完全にストップして冷却機能が失われれば、同様の事故は欧州でも起こりうる」ことを悟った。つまり様々な安全措置を講じても、完全に消し切れない「残余リスク(Restrisiko)」がこれまで考えられていたよりも大きく、欧州でも大災害が起こり得ることを理解したのである。

 このためモラトリアム期間中に原子炉安全委員会が行なっている安全検査のポイントは、地震、洪水、旅客機の墜落、テロ攻撃、サイバー攻撃など、様々なシナリオに原子炉が耐えられるかどうかに絞られる。いわゆる「ストレス・テスト」である。これらのシナリオは、従来の検査では重視されていなかった。

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「脱原子力政策を加速させるドイツ」の著者

熊谷 徹

熊谷 徹(くまがい・とおる)

在独ジャーナリスト

NHKワシントン特派員などを務めた後、90年からドイツを拠点に過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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