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デモ騒動、内モンゴルで何が起こっているのか

「私たちの人権は、血を流して戦う覚悟がなければ守れない」

2011年6月1日(水)

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 1998年、上海で留学中だった私の中国語の家庭教師はモンゴル族の女性で、元ラジオ・アナウンサーだった。同じモンゴル族の夫と共に大学院に入り直している才媛である。

 当時、街中ではまだ上海語を話す人が圧倒的に多く、周辺の中国人も上海なまりが多かった中で、彼女の美しい発音の普通話(日本で言う標準語に相当)は実に印象的だった。あまりに綺麗な発音なので、「モンゴル族なのにどうして普通話がそんなにうまいの?」と問うと、彼女はちょっと情けなさそうに笑って「モンゴル族は美しい普通話を話せないと生きていけないのよ」と話した。

自治権が得られると思っていたが裏切られた

 先日、偶然にも同じ言葉を、東京で会ったモンゴル族留学生から聞いた。バト・ソワさん、という。雑談の中で「モンゴル語で中国の大学受験はできるのか」と私が聞いた時、彼は「できることはできますが、モンゴル族は普通話が話せないと生きていけません。モンゴル語で大学に行っても仕事などありません」と答えたのだった。

 その時、彼女の、あの情けなさそうな顔をふと思い出した。誰より美しい普通話を話すために、どれほどの努力を重ねてきたか。

 夏休みに彼女の故郷のハイラルに遊びに行った時、家族とは当たり前のようにモンゴル語で会話していた。「今も野生のオオカミがいるのよ」と真っ青な草原を誇らしげに案内してくれた、別人のように明るく伸びやかで自信にあふれた様子を、再び思い出す。大学で漢族社会になじんでいたかのように見えた彼女も、本当はとても苦労していたのかもしれない、と今頃になって気付いたのだった。

 バト・ソワさんは言う。「当初民族自決を掲げていた中国共産党と協力し内モンゴル自治区を設立したモンゴル族は、本当の自治権が得られると思っていたが裏切られた。文化大革命では、モンゴル族というだけで分裂主義者と断罪され、十数万人が粛清された。モンゴル族はずっと漢族に裏切られ続けています」。

 そして自分のお兄さんの話をしてくれたのだった。

モンゴル族の文革は終わっていない

 バト・ソワさんのお兄さん、バト・ジャンさん(37)は、今年4月、懲役4年・執行猶予3年の判決を受け、現在、警察の監視下に置かれている。罪状は帳簿不明などの経済犯罪。しかしバト・ソワさんに言わせればこれは冤罪だ。

 簡単に経緯を説明しよう。バト・ジャンさんは医者で、2001年、モンゴルとチベットの伝統医学を教える学校をオルドス市に創設した。この学校はそれなりに評判になり2009年までに全土や海外のモンゴル族、チベット族ら300人以上の学生が学んだ。

 2007年に学校を拡張すべくオルドス市政府に教育目的の用地利用を申請した。すると政府はその見返りに520万元のワイロを要求。バト・ジャンさんはこれを高利貸しに借りて支払った。

 ところが2008年3月14日に発生したチベット騒乱以降、漢族による少数民族への警戒感が強まった。特にチベットと名のつくものに対する弾圧は激しく、市政府はある日突然、バト・ジャンさんに対する土地の利用許可を取り消した。そしてワイロは返してくれず、高利貸しの借金だけが残った。

 わずか1年の利子が290万元に上る。雪だるま式なので、このままでは破滅である。政府に抗議に行くと、電子メールなどで「殺されていいのか」との脅しを受けた。

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「デモ騒動、内モンゴルで何が起こっているのか」の著者

福島 香織

福島 香織(ふくしま・かおり)

ジャーナリスト

大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官