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クリステンセン教授からの手紙

「人生のジレンマ」を乗り越えるために

  • 水野 博泰

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2011年6月6日(月)

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 破壊的イノベーションという陥穽が優良企業をいともたやすく衰退へ導く──。「イノベーションのジレンマ」の著作で日本でもよく知られる米ハーバード大学ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授から、大震災後の復興に取り組む日本のビジネスリーダーに向けて1通の手紙が届いた。日本に助言を、という本誌の求めに快く応じてくれたものだ。

 クリステンセン氏はここ数年、いくつもの大病を患って闘病生活を強いられていた。2007年11月に突然、心臓発作に襲われた。その2年後には悪性腫瘍が見つかる。昨年7月には脳卒中で倒れて言語中枢の機能に障害が残るという三重苦を味わった。いまだに残る障害にもかかわらず、丁寧に打ち込まれた長文の手紙の内容は、極限的辛苦を味わった者同士だけが共感できる「原点」の教えだった。

(訳・構成=ニューヨーク支局 水野 博泰)

 今回の自然災害と、その結果として引き起こされた福島第1原子力発電所のトラブルによって、肉体的、精神的、経済的に苦しんでいる日本の皆さんに心からお見舞い申し上げます。世界の関心の中心はほかの出来事に移りつつあったとしても、日本の多くの人々が大災害の結果として経験している「喪失」に終わりはなく、今でも続いていることを私は知っています。世界中の多くの人々が、日本の人たちが苦しんでいることを心から悲しみ、できる限りの支援をしたいと願っています。

「破壊的イノベーション論」で知られる米ハーバード大学ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授

 企業経営や行政の舵取りという観点からは、この危機に対して日本がどのようなステップを踏んで対応すべきかという点について多くの課題があります。何を再建すべきなのか。どのぐらいの期間がかかるのか。同じような自然災害の可能性に対してほかの国々はどのような備えればよいのか。困難で複雑な問題です。政府、産業界、そして個々人が解決のために懸命に取り組まなければなりません。

心臓発作、ガン、脳卒中の三重苦を味わう

 実は、私は日本の皆さんと同じ体験をしました。幸せな人生を過ごしていたある日突然、それを一変させるような出来事が起こり、不幸のどん底に突き落とされたのです。私には何の落ち度もないというのにです。その経験を踏まえて、いくつか個人的なアドバイスをさせていただきたいと思います。今回の大災害で最も辛いことの1つは、何の前触れもなく、普通の人たちが被害を受けたことです。まじめに仕事をして、幸せに暮らしていた人々が、何も悪いことはしていないのに、ある日突然、人生を暗転させる出来事に遭遇していたということです。

 過去3年間というもの、私はいくつもの病気に悩まされてきました。それは私個人にとっても、私の家族にとっても大変な問題でした。3年少し前、私は突然、全く予期しない心臓発作に襲われました。その前に健康診断を受けていましたが、医師の診断では心臓発作を暗示するような兆候は全くありませんでした。実際、心臓発作リスクを示す指標はすべて平均より低いくらいでした。心臓発作を起こした時、医師は私の心臓動脈のある部分が完全に閉塞していたのを見つけました。普通は助からないケースだそうです。幸運なことに、私が担ぎ込まれた病院の医者が迅速に対応してくれたおかげで閉塞物を取り除くことができ、なんとか命を取り留めることができました。

 2年後の同じ季節に、私の主治医は私の体内に異様な形態のガンを発見しました。小胞状リンパ腫と呼ばれるものでした。このガンはとても進行が速く、見つかった時には、数カ所に転移していていくつもの大きな腫瘍があったのです。腹部にあったものは、なんとアメフトのボールぐらいの大きさがあったのです。主治医は化学療法を選択し、ガンを徹底的に攻撃しました。医師団の技術の高さと懸命の努力、そして彼らが私に与えた薬のおかげで、私はそのガンに打ち勝つことができました。小康状態を保っているように思えました。

 化学療法をやめた直後のことです。教会での日曜礼拝の際に今度は脳卒中で倒れました。たまたまマサチューセッツ総合病院に近かったため、迅速に医学的対処をしてもらうことができ、私の脳への障害を最小限に抑えることができました。ただし、医師たちの迅速さにもかかわらず、いくつかの後遺症が残ってしまいました。脳卒中によって影響を受けた脳の部位は、コミュニケーションにかかわる能力をコントロールする部分でした。私は今でも身体を自由に動かすことができますが、私のボキャブラリー(語彙)が頭の中でめちゃくちゃに混ぜ返されてしまったようで、時々、単語を思いだそうとしてもできないことがあるのです。ただ、時間はかかりますが、私は完全に回復することについて、今は楽観的に考えています。

対話能力に障害残り「うつ状態」に陥る

 このような私の個人的な経験は、日本の多くの皆さんが経験している苦しみや悲しみに比べれば、はるかに小さいことに過ぎません。それをあえて皆さんに告白したのは、日本の皆さんが感じていることと私が感じてきたことには、共通したものがあると思ったからです。私は健康な生活を営むために最善を尽くしてきました。食事に気を遣い、適度な運動を心がけ、健康診断も定期的に受けてきました。しかし、そうした努力は結果的に何の役にも立たなかったではないかと、悔しい思いでいっぱいになりました。

 最初の心臓発作からは順調に回復しましたが、ガンははるかに大変でした。脳卒中は私にとって最も過酷なものでした。私は大学教授ですから、仕事の大半は学生と対話することにあります。あるいは研究成果を書いて公に発表することです。脳卒中によって、まさに、そうした私の職務に最も重要な脳の部位を損傷することになってしまいました。

コメント4件コメント/レビュー

後回しにせず、大事なことを大事にしようと思います。もし可能であれば、ぜひ原文も掲載してください。よろしくお願いいたします。(2011/06/08)

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

後回しにせず、大事なことを大事にしようと思います。もし可能であれば、ぜひ原文も掲載してください。よろしくお願いいたします。(2011/06/08)

東日本大震災が復興フェーズに移りつつある中で、経済がどうだ、政治がどうだという話題ばかりが先行しているように感じていました。クリステンセン教授の「幸福とは人間同士の奉仕の中にある」ということばに強い感銘を受けました。敬虔なモルモン教徒でいらっしゃると聞きますので、おそらく宗教的な意味合いも含まれていると思いますが、わたしも幸せは利己的な活動の中には存在しえないと思っています。復興を目指すにしても、これからの日本の社会を切り開いていくにしても、自分以外の誰かのためにパフォーマンスを上げていくことが一人ひとりに求められているように感じています。素晴らしい記事で感動しました。ありがとうございました。現在、大学で学生の教育にあたっています。この記事を留学生にもぜひ英文で読ませたいと思います。個人的なお願いで大変恐縮ですが、もし可能でしたら、英文記事をどこかでアップしていただけると幸いです。(2011/06/07)

でも、"衣食足って 礼節を知る" だと思うけどな。特に健康関係なら、自分がまともな状態や、まともじゃなくてもある程度の余裕のある状態にならなければ、他者への働きかけなんかやってられないでしょう。(2011/06/06)

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