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言論統制下、知識人の葛藤

“天安門前夜”か、と思うくらいの緊迫状況で

2011年6月8日(水)

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 東京・渋谷の小シアター・イメージフォーラムで翰光監督が撮ったドキュメンタリー映画が上映されている。タイトルは「亡命」。1989年の天安門事件を契機に祖国を捨てた鄭義(作家)や高行健(ノーベル文学賞受賞作家)、王丹(天安門事件当時の学生指導者)といった14人の“亡命知識人”のインタビューで構成される。

 実は作品自体はすでに昨年の同じ季節に試写会で観たのだが、天安門事件22周年の今の時期に合わせて日本で劇場公開された。最初に観た時は正直、えらく地味な構成だと思ったが、改めて観直すと、考えさせられる。やはり今年の中国の状況が「ただならぬ緊迫感」を漂わせており時節にあったテーマだからだろう。

「中国式ジャスミン革命」を呼びかける声

 このコラムでも何度か触れたが今年、「中国式ジャスミン革命」を呼びかける声があり、その抑え込みを口実に民主化活動家や弁護士、作家や芸術家らが次々と拘束された。中国が国防予算より多い治安維持費をかけて、世界で一番多い2100万人の治安維持要員を使って、反体制的な言動をことごとく抑え込んでいる。

 江西省撫州市では再開発計画に伴う強制立ち退きに10年間抵抗した農民が地元政府庁舎などを連続爆破する事件が発生した。2008年、09年とチベット族、ウイグル族との民族問題が表面化したが、今は内モンゴル自治区で緊張が高まっている。

 中国で天安門事件は風化している、と言う人もいるが、今まさに“天安門前夜”か、と思うくらいの緊迫状況だという指摘も嘘ではないのだ。もちろん、普通の観光客が普通に観光地や街中を歩いていて危険を感じることなどない。しかし天安門事件が起きた1989年でも2月ごろはまだ、誰もその年に何が起きるかなどと予測してはいなかった。

 当時の北京特派員をやっていた人から聞いた話では「今年の全人代(全国人民代表大会=国会のようなもの)はたいしたことないな、平和だな~、とのんきに同僚と話していた」そうだ。これから中国がどうなるかなんて、誰も予測できるわけがない。

指名手配、潜伏生活、そして米国に亡命

 ドキュメンタリー映画「亡命」に話を戻す。この映画の出演者は、みな22年前の天安門事件と関わりがある。登場人物の筆頭は在米亡命作家の鄭義。映画「古井戸」(呉天明監督、張芸謀撮影・主演)の原作で知られる作家だ。この映画は1987年の東京国際映画祭のグランプリを受賞しているので日本でも知っている人が多いだろう。だが、天安門事件を契機に鄭義の運命は狂う。彼は学生の民主化運動を指導したとして指名手配され、3年間中国の地方で潜伏生活をしたのち、米国に亡命した。

 インタビューの中で、この潜伏生活時代に取材した文化大革命期の広西チワン族自治区で発生した人肉食の実態について語るところがでてくる。その内容は日本では『食人宴席―抹殺された中国現代史』(カッパ・ブックス)という形でも紹介されたが、強く印象に残ったのはそういうおどろおどろしい告発の内容ではなく、その言葉のはしばしににじむ祖国・中国への望郷の思いと、体制内作家、つまり中国当局の言論統制に妥協して、国内で言論活動を行っている作家たちへの激しい批判だった。

 鄭義は英語が得意でなく、生活の糧は、ジャーナリストである妻、北明の稼ぎに頼っている。私は最近、鄭義の新作の噂を聞いた覚えがない。彼自身が語っているが、その創作の源泉は中国という土地・風土にある。中国の大地から20年近く離れた今、かつてほど生々しい名作は書きたくても書けないのだろう。

 一昔前は『赤い高粱』(岩波現代文庫)などの作品で知られる莫言と並んで、中国マジックリアリズムの雄と呼ばれ、中国初のノーベル文学賞候補であると期待された作家だったが、今なお、精力的にベストセラーを書き続けている莫言とはもう比べられることもなくなった。

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「言論統制下、知識人の葛藤」の著者

福島 香織

福島 香織(ふくしま・かおり)

ジャーナリスト

大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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