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重慶のカリスマ政治家・薄熙来が仕掛けた“巧妙なガス抜き”

市民はなぜ、広場で革命の歌を合唱するのか?

2011年6月9日(木)

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 北京大学時代6年間一緒だったLと久しぶりに痛快に杯を交わした。深夜にもかかわらず、ビールをジョッキで10杯ずつは飲み干した。改めて思う。筆者にとって北京大学で築いた人脈は生涯の財産なんだと。大切にしていきたい。

 3時間ほど睡眠をとると、夜が明けた。ジャージを身に着け、シューズに履き替えた。筆者は地方出張の際にも必ずランニング用具を持参する。走ることで見慣れない土地を理解していく。市民の吐息、生活の雰囲気を感じ取るのだ。自らの足で素材を獲りに行く。

街中で交わす世間話は貴重な情報源

 時計の針は午前7時を回っていた。Lに勧められた通り、ホテルを出て、ただひたすら走り続けた。重慶市街はくねくねしていて、アップダウンも多い。筆者の実家に近い伊豆半島の熱海に来たような感覚だった。シンボルである揚子江の位置さえ分かれば、地図がなくても東西南北が分かる。

 重慶大学キャンパス付近にやって来た。天気は曇り模様で、どんよりとしていた。売店のおばさんに話しかけてみる。「おばさん。おはようございます。今日は曇りですね。雨が降りそうな気配もある。重慶はいつもこんな天気なんですか?」

 おばさんが気持ちよく答えてくれた。
 「ニーハオ、お兄さん。重慶には晴れの日がほとんどないんだよ。盆地だから夏はとっても暑いよ。サウナに入っているように蒸し暑いんだ。雨は不規則だけど、しょっちゅう降る」

 中国ではどこに行っても、道端で、見知らぬ人と普通に話しができる。決して「KY」などとは思われない。コミュニケーションこそが生産性を高める。こういう現場での情報収集こそがインテリジェンスの基本になる。

 「一つ伺いたいんですが。最近重慶では打黒(マフィア一掃作戦)が終わって、唱紅歌(中国共産党革命万歳を歌うこと)ムードに入ったみたいですね。確かに街全体が高揚している感じがします。この近くで、その現場を見れる場所ありますか?」

 もちろん自分が外国人であることは明かさない。おばさんは何をためらうこともなく、ストレートに返してきた。

 「はは、唱紅ね。どこでもやっているわよ。キャンパスの向こう側に少し大きめの公園があるの。今の時間なら私と同じくらいの男女が革命の歌を合唱しているんじゃないかしら。大勢いるわよ」

 おばさんにお礼を言い、常温の缶コーヒーを1本購入した。コーヒーを口に運びながら、早歩きで現場を目指した。

誰に指図されることもなく革命歌を合唱

 「何だ、これは!?」

 中国に来て早8年。北京において、暇そうな人たちが公園にやってきて、集団で時間を潰している光景は、日々、無数に目にしてきた。だが、重慶におけるこの光景には度肝を抜かれた。

 200人は下らないだろう。売店のおばさんが教えてくれたように、40~60歳の男女が秩序なき輪を作り、合唱していた。孫を連れている夫婦もいた。歌っているのは紅歌の代表格『歌唱社会主義祖国』だ。指揮官はいない。誰かに言われて、やらされているという雰囲気ではない。皆楽しそうに、リズムを取りながら、その場の雰囲気を心底楽しんでいるようにしか見えなかった。

 しばらく現場を眺めてみることにした。

 革命の歌に酔う集団は止まらない。とにかく歌い続ける。『十五の月亮』『我的祖国』『東方紅』。「中国共産党は革命党であり、毛沢東主席は建国の父である。共産党なしに、新中国が生まれることはあり得なかった。自分たちは革命の子だ。中国共産党万歳!」といった歌詞である。

 筆者も革命の渦に入って行った。さすがに歌うことはしなかったが、リズムに体を合わせながら。近くにいるおじさんやおばさんに感想を伺ってみた。

 「おじさん、楽しそうだね。毎日こうして歌っているの?」
 無邪気な表情が愛らしい。
 「そうだよ。毎日、唱紅歌だよ! お兄さんも一緒に歌って! ほら!」

 リズムだけは合わせながら、色々聞き続けた。

 「本当に楽しいんですね。この合唱会はどなたかが組織しているんですか?」
 「違うよ。みんな自発的に集まっているのさ」
 「じゃあルールとかはないんですね? すべて自由にやっていること?」
 「もちろんだよ。好きだからやっているのさ!」
 「毎日こんなにたくさん人がいるんですか? ここ以外にもありますか?」
 「今日は少ないほうだよ。重慶の街は今、至る所で革命ブームだよ。お兄さん、発音を聞く限り地元の人間じゃないね。どこから来たんだい?」
 「そうですか。北京から来ました。お邪魔しました。おじさん、ゆっくり楽しんでね」

「加藤嘉一の「脱中国論」現代中国を読み解く56のテーゼ」のバックナンバー

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「重慶のカリスマ政治家・薄熙来が仕掛けた“巧妙なガス抜き”」の著者

加藤 嘉一

加藤 嘉一(かとう・よしかず)

国際コラムニスト

現在米ハーバード大学アジアセンターフェロー。世界経済フォーラムGlobal Shapers Community(GSC)メンバー。中国版ツイッター(新浪微博)のフォロワー数は150万以上。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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