Peter Burrows(Bloomberg Businessweekシニアライター、サンフランシスコ)
Joseph Galante(Bloomberg News記者)
米国時間2011年6月23日更新「 Why Some Skypers Are Seeing Red 」
過去何十年もの間、米シリコンバレーのIT(情報技術)業界では、給料だけでなく、ストックオプション制度によって多くの人材を引きつけてきた。ストックオプションは、社員が相当数の自社株式を購入できるものだ。勤める会社が株式を公開したり、買収されたりした場合に、社員はストックオプションで巨額の利益が得られる。
現在は、多くの企業がストックオプションの制度が当たり前のように採用しているため、IT業界での経験が長い人は、わざわざ弁護士を雇って新しい勤務先のストックオプション制度の詳細を確認しようとはしない。会社が提供する医療保険について確認するために、福利厚生の専門家に相談したりしないのと同様だ。
投資家グループが持つ、指定価格で株式を買い取る「買い戻し権」
インターネット電話大手スカイプ・テクノロジーズ(本社:ルクセンブルク)に務めていたイー・リー氏は、4月にスカイプを退職した後、同社のストックオプション制度に関する衝撃的な事実を知ることになった。ストックオプション制度では通常、特定の価格である時期に株式を購入する権利が社員に与えられる。しかし、スカイプ人事部との1カ月にわたる問答の末、同社のストックオプション制度の規定により、リー氏の「権利取得済み」のストックオプションは価値を失ったことが分かったのだ。
米プライベートエクイティ(PE、非公開株)投資会社シルバーレークパートナーズを中心とする投資家グループが2009年、米インターネット競売大手イーベイ(EBAY)からスカイプを買収した。このとき、投資家グループは、指定価格で株式を買い取る「買い戻し権」を獲得していた。
米ブルームバーグ・ニュースでコラムを書いている報酬問題専門家、グラエフ・クリスタル氏は「権利取得済みのストックオプションを企業が剥奪できる事例は初耳だ。これでは、権利取得済みという言葉が意味をなさなくなる」と語る。
この規定について、最近スカイプを退社したばかりの元社員は特に腹立たしく感じるかもしれない。米マイクロソフト(MSFT)が5月10日、スカイプを85億ドル(約6900億円)で買収することで合意したと発表。スカイプ元社員らはこの買収を歓迎した。マイクロソフトによる買収額は、シルバーレークをはじめとする投資家グループがイーベイに提示した買収額20億ドル(約1600億円)の4倍以上だ。
リー氏は「私がスカイプに13カ月勤務して取得したストックオプション分の利益は7万ドル(約570万円)程度だ。シルバーレークは、巨額の売却益が得られるのだから、私の分ぐらいを出し惜しみするのは理解できない。これほどの収益を上げていながら、皆の利益を奪い取るようなことはしなくていいはず」と批判する。
シルバーレークはリー氏の件についてコメントを拒否した。スカイプの広報担当ブライアン・オショーネシー氏はこの件について、「報酬は社員として働き続けて得るべきだ。当社は優れた製品・サービスを提供できるよう、一流の人材をつなぎ止めるため、あえて契約にこうした条項を盛り込んでいる。この元社員は自らの選択で退社したために報酬を受けられない」と反論する。
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