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大丈夫。インド人の扱い方をよく知っているから

インドと中国、2つの大国に挟まれた小国の知恵

  • 御手洗 瑞子

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2011年7月21日(木)

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 ワンディさんは、知的な雰囲気を漂わせる女性です。いつもおっとりと、目尻に笑いじわを作りながら人の話を聞く。息子さんは高校3年生。ご自身は大学卒業後からブータンの農林省に勤め、いまは非政府組織(NGO)の代表をされています。

 職場のカフェテリアで紅茶を飲みながら、ワンディさんは、いつも通りにこにこしてこう言いました。

 「大丈夫。私たちブータン人は、インド人の扱い方をよく知っているから」

 そして、少し納得のいかなそうな顔をしている私の目を見ながら、ゆっくり、こう説明してくれました。

 「インド人はね、ミーティングに来るととても偉そうな態度を取る。こちらのマナーであるお辞儀なんかもせずに、ずかずかと部屋に入ってきて、でんと座る。ミーティング中はとにかく早口でたくさん話す。ああすべきだ、こうすべきだ、と上からものを言う。私たちは、それをただ、にこにこと聞く」

 「そうやって、威張らせるだけ威張らせ、言いたいことを全部言わせてしまえば、インド人は気持ちよく帰っていく。でも結局、私たちは、彼らが言ったことのうち、いいなと思うことはやるし、納得できないことはしない。それだけのことなのよ」

人口10億人対70万人

 ブータンは、歳入の2割がインド政府からの援助で、財政面で大きくインドに依存する国です。また、病院・学校の多くもインド政府の支援で建てられ、最大産業である水力発電もインド政府との買い取り契約に頼っています。

 ブータンは、インドの支援なしには成り立たないと言っても過言ではないでしょう。

 人口10億人を超えるインドから見れば、人口70万人足らずのブータンは、自分たちの支援で成り立っている、小さな小さな隣の国です。そこに文化の違いも相まって、ブータン人の目にはインド人が傲慢に見えることがあるようです。確かに、両者が出席する会議では、たいていインド側の出席者がとても偉そうな振る舞い、もの言いをしているように見えます。

 ブータンはとても礼節を重んじる国です。目上の人に対しては、しっかりとお辞儀をします。相手のポジションによってお辞儀の角度まで決まっています。

 ポジションの高い人のことは名前ではなく役職名で呼びます。日本で社長のことを○○さん、ではなく「社長」とか「○○社長」と呼ぶのと同じ感覚です。

 客人があればお茶を勧め、お茶を勧められた方も3回遠慮してからいただくのがマナーです。海外からの客人のことも丁寧にもてなします。

 そんなブータンなのですが、インドからのお客さまが来ると、端から見ている私がドキドキしてしまうことがあります。例えば私の上司である次官と、インドのある支援組織のミーティングで――。

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 次官の部屋にカジュアルな格好でやってきたインドからの一行は、「やぁやぁ、カルマ、元気かい?」と次官をファーストネームで呼び、勧められる前にソファにどかっと座りました。足を組んで背もたれに寄りかかり、リラックス。お茶を運んできてくれたスタッフにお礼も言わずにカップを受け取り、飲み始めました。

 ブータンでは慣例となっている社交の挨拶もなく本題を切り出し、次官に対して一方的に命令口調で話します。「いいかいカルマ。この状況を見ると、あなたはこうしなくてはいけないんだ。今すぐにこれをやらないといけない。分かるかい?」

 彼らが持ってきた提案書を見て、次官が意見を言いかけると、「いや、カルマ。これはこれでいいんだ。なぜなら…」と話をさえぎってまた自分の主張を繰り返します。とても強い、一方的な口調に聞こえます。

 普段、ジェントルに、丁寧に、礼節を重んじながらゆっくりと物事が進んでいるブータンで、この光景はひやりとさせられるものがあります。次官はどのように感じているのだろうか、嫌ではないのだろうか、とハラハラしてしまいます。

 こうした光景は、ブータンのいたるところで見られます。政府間のミーティングでも、民間企業同士のミーティングでも。

ミーティングでは、威張らせておけばいい

 文化の違いもあるかと思いますが、それに加え、インドとブータンが圧倒的な「支援する側」「支援される側」という関係にあることから、この光景が「インド人がブータンの文化に土足で入り威張っている」というように見えてしまうのかもしれません。

 少し複雑な気持ちでいる私に対し、ワンディさんはにこにこしながら冒頭の言葉を言ったのでした。「大丈夫。私たちブータン人は、インド人の扱い方をよく知っているから」。

 ミーティングでは、威張らせておけばいい。でも自分たちは、結局、自分たちの信じること、いいと思うことしかしない。インド人が言うことも、にこにこ聞いておいて、後で「いいとこどり」すればいい、と。

 そんなしたたかさが、ブータンの人にはあります。

コメント12件コメント/レビュー

だんだんと話が生々しくなってきましたね。これぞNB。期待しています▼チベットの状態が見えるだけに中国の脅威を感じるのでしょう。どの程度正しいかはわかりませんが、インドとの複雑な関係は興味深いです。感覚としてもわかるような気がします。たぶん日本人である筆者には、言語化した形では明かされないこともあるでしょう。その領域については想像するしかありませんが、それについて示唆も含んだ記事だと思います。人間は、やはり人間であるということでしょうか。(2011/08/02)

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いただいたコメント

だんだんと話が生々しくなってきましたね。これぞNB。期待しています▼チベットの状態が見えるだけに中国の脅威を感じるのでしょう。どの程度正しいかはわかりませんが、インドとの複雑な関係は興味深いです。感覚としてもわかるような気がします。たぶん日本人である筆者には、言語化した形では明かされないこともあるでしょう。その領域については想像するしかありませんが、それについて示唆も含んだ記事だと思います。人間は、やはり人間であるということでしょうか。(2011/08/02)

先のコメントの方。【>冬虫夏草などの資源がなくなれば~】とは、これまでに冬虫夏草を理由とした侵略があったということでしょうか?知見が無く好奇心からではありますが、まさかそこまで冬虫夏草が珍重されているのかと興味深く感じたので、お教え頂けると幸いです。ちなみに私はそこに日本的価値観で感じることがあってもそれを正否とあてがうことができないので難しく、一筋縄でいかないのだと感じました。お世話になった分をその相手に返す、というのは日本的な感覚のようです。(宗教にも明るくないため明言できませんが、教義に依る印象)ブータンの方々はインドの方にブータン流の礼節を取って頂くことを本当に気にされないのでしょうか?そこにあるのは諦めなのか見下しなのか無関心なのか・・・。またインドの方は伝えた主張の一部しか履行(?実行)されないことについて、どのようにお考えなのでしょうか。それが仮に日本のビジネスシーンであれば、書面で取り交わして期限を決めてと、そんな「イイトコドリ」出来ないように進むので、そんななあなあで国交の一部が成り立っていることに驚きました。(このシーンは支援組織の方だったからであって、支援とビジネスがインドにとって完全に離れている?から、でしょうか??想像だけが駆け巡ります・・・)私がこのコラムで刺激されるのはブータンについての興味だけではないようで、毎回自分のモノサシの規格の小ささに気付かされます。今後も生の声を楽しみにしています。(2011/07/25)

「そもそもブータンは、資源もなく場所にも恵まれない小国であり、中国かインド、どちらかの支援なしには生き残るのが難しい。もし、文化的に近い中国に頼ると、中国とブータンの文化的境界が曖昧な分、併合されるリスクは高い。そこで、中国より明確に文化が異なるインドと友好関係を結び、支援を受けることにした。」本当にすばらしい記事です。学ぶことがとても多い。日本は1億人の人口を有し、むしろ大国の部類にはいるとは思いますが、資源が無く、なお今、中国と米国という「超大国」にはさまれている点で上記の内容に学ぶところは多いと思います。(2011/07/23)

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